浴衣の誘惑には勝てないよ?

 

 

 

 





「ねえ、シュウ!今度の日曜日、一緒にお祭り行こう!」

七月初め、昼下がりの気だるい暑さが漂う教室。

昼食も食べ終わり、椅子に座ったまま、ぼんやりと教室の窓から外を眺めていたシュウは、いきなりハルカから声を掛けられた。

振り返ると、目をキラキラさせたハルカがこちらに身を乗り出している。

「……何でいきなり?」

「別にいきなりってわけでもないわよ。まだ数日あるんだから。」

「まあ、当日に言われなかっただけマシだけど……。」

受け答えに覇気のないシュウにハルカは焦れる。

「一緒に行ってくれないの?」

「ぼくが騒がしいところ嫌いなの、君は知ってるだろう?」

「知ってるけど……。」

「だから、友達か誰かを誘って行ってくれ。」

キッパリ断って、シュウは頬杖をついてまた窓の外を眺める。

どうも縁日とか祭りとかいうものは好きになれない。

縁日や祭り自体が嫌いなわけではないのだが、あの人の多さにはウンザリする。

あの人込の中に飛び込むくらいなら、家でゆっくり涼んでいた方がいい。

夜は熱帯地方かと思うくらい暑いのだから。

「行ってくれないの……?」

ハルカがシュウの顔の前に回りこんできた。

机の横にしゃがんで、シュウに視線を合わせる。

「わたしはシュウと一緒に行きたいの。ねえ、行こうよ……。」

視線を合わせると言っても、しゃがみ込んでいるからシュウの方が視線は上。

つまり、ハルカは上目遣い。

しかも、机の端に指を置いて、それが丁度口元を隠している。

俗に言うおねだりポーズ。

狙ってやってるのか……?

グラリと決心が傾く。

「嫌だって言ってるだろう。」

それでも何とか断る。

いくらハルカと一緒でも、人込は嫌なのだ。

一緒にいるだけなら、家でも学校でもいくらでも出来るし。

「シュウー。」

「ダメなものはダメ。」

そんな可愛い声で呼ばないでくれ。

大震災到来で決心がぐらぐら揺れている。

ハルカはシュウが全くお願いを聞いてくれそうにないのを見て、シュウから顔を逸らしペタリと机に頬を伏せた。

実際のところ、シュウはぐらつきまくっていたのだが。

「……シュウと一緒にお祭り楽しみたかったのに。」

寂しそうな声で小さく言う。

「……シュウと一緒に歩いて、いっぱい美味しい物食べて、いっぱい遊んで、いっぱい思い出作りたかったのに。」

顔を上げて、今度はシュウに顔を向けて頬を伏せる。

「……シュウの意地悪。」

上目遣い、可愛い声、机の上に散った髪、ふくれた頬、拗ねた言葉。

決心は耐震偽造設計で崩れ落ち、残った部分も大津波に持っていかれた。

「……ちょっとだけだからね。」

「いいの!?」

ハルカが目を輝かせて跳ね起きる。

「少し楽しんだら帰るよ。」

「ありがとう!シュウ、大好き!」

ハルカが椅子に座ったシュウに飛びつく。

目を白黒させながらも、シュウもハルカの背中に手を回した。

教室の体感温度は間違いなく上がり、二人以外の人間を夏バテに追い込んでいた。




日曜日の夕方、シュウは待ち合わせ場所の公園でハルカを待っていた。

「遅い……。」

縁日の行われる神社には時間が経てば経つほど人が集まる。

だから、早く行って早く帰ろうと思っていたのに、ハルカが遅刻しているせいで、それは不可能に終わりそうだ。

空もここに来た頃は赤く明るかったのに、今はもう夜と言った方がいいくらいに暗くなっている。

座ったベンチの影も伸び切って、紺に塗り潰されようとしていた。

「遅すぎる……。」

遅刻常習犯のハルカだが、ここまで遅れるということは今まで無かった。

まさか、何かあったのか?

シュウは思わず立ち上がる。

「シュウ!」

その時、待ちわびていたハルカの声がやっと聞こえた。

「遅いよ……。」

ほっとしながらシュウは振り返る。

そして、そのまま固まった。

「ごめんごめん……ってシュウ?」

カラコロ駒下駄を響かせて、ハルカがシュウの方に歩いてくる。

シュウの目の前で立ち止まり、シュウの顔を覗き込んだ。

「どうしたの、シュウ?」

「その格好……。」

「ああ、これ?」

ハルカは嬉しそうに浴衣の袖を振る。

白い蝶が赤い生地の上を舞い、紺の帯を彩った。

「ママに手伝ってもらってたんだけど時間かかちゃって、こんなに遅くなっちゃった。ごめんね、シュウ。」

「いや、いい……。」

シュウは呆然としながら恋人を眺める。

夕日の赤、夜の紺、その中で映える白い蝶とわずかに覗く小さな手。

ゴクリと喉が鳴る。

「さ、行きましょう、シュウ!もうお祭り始まってるかも!」

ハルカが公園の出口に向かおうと、シュウに背を向ける。

まとめた髪とそこに付けられた飾りが揺れた。

視線を少し下にやると、浴衣の襟から覗く白いうなじ、汗で張り付いた後れ毛。

「シュウ、どうしたの?」

「あ……。」

思わず伸ばしてしまった右手を宙に浮かせたまま、振り返ったハルカを見てシュウは慌てる。

ハルカは焦っているらしい恋人を眺めていたが、何かを思いついたように顔を輝かせた。

「えへへっ!ありがとう、シュウ!」

ハルカは伸ばされた右手を自身の左手で取った。

きゅっと握られた右手に、シュウの心臓は胸から飛び出すのではないかと思うくらいに響く。

「お祭り、きっと楽しいよ!早く行こう!」

ハルカに手を引かれ、シュウは顔の火照りが収まらぬまま歩き出した。




とっぷり日も暮れた雑踏の中、二人は手を繋いで歩く。

ハルカのもう一方の手には綿あめが握られていた。

「やっぱり、お祭りって言ったら綿あめよねー。」

「君、さっきはフランクフルトって言ってて、その前はリンゴあめって言って、またその前は箸巻きで、またまたその前は――。」

「いいでしょう!お祭りの名物はいっぱいあるのよ!」

ハルカは綿あめにかぶり付く。

しかし、中身の無い砂糖の雲は全く歯ごたえが無かった。

「お祭りの名物と言えば。君は食べ物以外にも金魚すくいとかヨーヨーつりとか好きそうなのにしないんだね。」

少し意外だったよ。

シュウの言葉にハルカはわずかに顔を赤らめる。

「だって……もう巾着持ってるし、金魚とかヨーヨーとか貰っても、腕に下げられないじゃない。」

ハルカは右手に通した黄色い巾着を示す。

「左手で持てばいいじゃないか。」

「……シュウと手が繋げなくなるじゃない。」

その言葉に、今度はシュウが顔を赤く染める。

「……それを気にしてたから、たこ焼きは買わなかったのか。食い気が一番の君が。」

「何よ、それ!」

必死で誤魔化したシュウにハルカが言い返す。

それでも二人は笑い合っていた。




「ねえ、シュウは何かして遊ばないの?」

今度はクレープを持ったハルカが屋台を見ながら言う。

縁日だけあって、色々な屋台が出ていた。

「別に遊びたいものはないよ。」

「でも、シュウ、何も食べずにただ歩いてるだけだし、退屈してるんじゃないかと思って……。」

「だったら、食べさせてくれる?」

シュウがハルカの顔を覗き込む。

悪戯な光が煌いているのを見て、ハルカは一瞬怯む。

それでも何とかクレープをシュウの顔の前に差し出した。

「……で?」

「でって何よ。」

「あーんって言ってくれないの?」

「なっ!」

ハルカがまた顔を染める。

「ほら、早く。」

期待するような瞳で見つめられて、ハルカは何とか言葉を搾り出す。

「……あ、あーん。」

嬉しそうにシュウはクレープを頬張る。

「ありがとう、ハルカ。」

クレープを一口貰ったシュウが満足そうに言った。

この目と声にハルカは弱いのだ。

甘えるように見つめられたら叶えたくなる。

嬉しそうな声でお礼を言われたらこちらまで嬉しくなる。

これが惚れた弱みというものなのだろうか。

ハルカはクレープを一口食べる。

そこはシュウが口を付けた所だった。




「でも、やっぱり、わたしばっかり楽しんでるみたいで気が引けるかも……。」

「君ね……。」

シュウは呆れる。

自分はハルカと一緒に歩いているだけで楽しいのに。

人込は嫌だけど、手を繋いだハルカが隣にいると、そのおかげで密着できるから、もっと楽しいのに。

まあ、うなじなんかが目に入って心臓に悪いんだけど。

でも、ハルカが自分のせいで楽しめないというのは良くない。

ハルカを喜ばせるために祭りに来たのに、ハルカが祭りを楽しめないのでは本末転倒だ。

「じゃあ、ぼくも少しやってみたいことがあるんだけどいいかな?」

その言葉にハルカは顔を輝かせる。

「うん!シュウは何がしたいの?」

「あれ。」

シュウは屋台の一つを指差した。

「射的?」

ハルカが棚に並んだ景品とコルク銃を見て言う。

「何か似合いすぎてて怖いかも……。」

「どういう意味だい?」

「狙った獲物は逃がさないところ。」

即答されて一瞬沈黙する。

「……獲物を逃がさないんじゃなくて、獲物が逃げないのさ。」

こんな風にね。

シュウは繋いだ手をハルカの前に示すように上げる。

ああ、また顔を赤くして、可愛いにも程がある。

シュウは切り返しが大成功だったので、気分良く屋台に向かった。




銃を構えて獲物を見据える。

そんなシュウの横で、ハルカは彼に見惚れていた。

シュウが引き金を引く。

コルクは獲物を大きく外れ、壁にぶつかり地に落ちた。

「カッコ悪いかも……。」

「今のは試し撃ちだから。」

シュウが二発目を込めながら言う。

「負け惜しみ……。」

「本当だよ。」

シュウがまた銃を構えた。

一発目の時よりも狙いを定めるのに時間を掛けながら、シュウは引き金を引く。

コルクは小さな箱に当たり、箱はバランスを崩して下のクッションに落ちた。

「わあっ!本当に当たった!」

「本当にってね……。だから一発目は試し撃ちだって言っただろう?」

シュウは手にした銃を構えてみせる。

「こういう所の銃はそれぞれ癖があって、真っ直ぐコルクが飛ぶことなんて無いんだ。だから、一発目は標準を合わせるために試し撃ちするのがコツなんだよ。」

「へーっ、詳しいのね、シュウ。」

「まあね。」

シュウは店員から景品を受け取る。

「やってみるかい、ハルカ?」

「え、いいの?」

「ぼくはもう景品を貰ったしね。コルクもまだ余ってるから撃ってみるといい。」

シュウはハルカにコルクを込めてやった銃を差し出した。

ハルカが棚に向かう。

「ほら、肘はそうじゃなくて、もっと引いて……。」

シュウはハルカの体に密着し、ハルカの腕に手を添える。

シュウの本当にやりたいことは射的ではなく、ハルカに文字通り手取り足取り教えることだった。




「うう、一個も景品取れなかった……。」

「まあ、コツって簡単に言っても、すぐに掴めるほど優しくないからね。」

二人はさらに奥へと歩いていく。

「はい。」

「……何?」

ハルカはシュウの手に乗った小さくて平たい箱を見る。

「君にあげるよ。君の作りたがってた祭りの思い出。」

「いいの?」

「もちろん。」

「ありがとう、シュウ!」

ハルカは箱を手にとって花が咲いたように笑う。

あまりにその笑顔が眩しくて、シュウは思わず顔を逸らした。

ハルカはそんなシュウに気付かず、箱を目の高さに掲げる。

「……トランプ?」

ハルカの言う通り、それはケースに入ったトランプだった。

可愛らしくデフォルメされた動物が二匹戯れている絵柄が見える。

「英語で何か書いてある……。ええと……。」

「"The card of wizards"」

「え?」

「魔法使いのトランプって意味だよ。」

ハルカはまじまじと図柄を眺める。

言われて見れば、確かに何か意味ありげな幾何学模様が描かれている。

「じゃあ、この動物が魔法使いなの?」

「さあ?動物に変身した魔法使いかもしれないし、魔法使いの使い魔かもしれない。」

ハルカはもっとよく眺めようと明るい所で立ち止まる。

人の邪魔にならないよう道の隅に避けながら、シュウもトランプを覗き込んだ。

「黒猫と……犬?」

「狼だと思うよ。可愛く描かれてるけど、目が鋭い。」

シュウがケースの上から狼をコツコツ指で叩く。

ハルカはしばらくトランプを見つめていたが、ぎゅっとそれを胸に抱きしめた。

「とっても素敵!ありがとう、シュウ!」

「ハルカ?」

トランプが素敵というのはどういうことだろう。

「お祭りに行って、何か見たことのない不思議な物を手に入れるって話よくあるじゃない?それが異世界に繋がるアイテムだったりして!」

「……現実には無いと思うよ。」

「夢があっていいじゃない!とってもお祭りらしい思い出よ!」

ハルカが嬉しそうに笑った。

シュウはハルカの笑顔に魅入られる。

その笑顔は無邪気そのもののはずなのに。

トランプを大切そうに抱き寄せる仕草だって彼女らしくて可愛いものなのに。

ただ着ている物がいつもと違うというだけで、こんなにも違って見える。

笑顔は白い首筋と相まって扇情的に。

胸元に当てられた袖から覗く細い指は艶かしくて。

全てが違う。

異世界とはこういうのを言うんじゃないだろうか。

喉が鳴るのをとめられない。




二人は手を繋いだまま、雑踏を抜け出し神社の奥へと進んでいた。

「シュウ、どこに行くの?」

「まあ見ててごらんよ。」

祭囃子を遠く後ろに聞きながら二人は歩く。

「今日は月が出てるから転ばないとは思うけど、足元には気をつけて。」

シュウの言う通り、祭りの明かりが無くても辺りは明るかった。

しばらく歩いて、二人は開けた場所に出る。

「わあっ!」

そこは大きな池だった。

月が水面に映ってゆらゆらと静かに揺れている。

シュウが池のほとりに座ったので、ハルカも隣に座った。

「どうしてこんな所知ってるの?」

「まだ小さな頃に一度連れられて来たことがあるんだ。初詣の時だったと思うけど。」

あの時も人が沢山いて参ったよ。

シュウの言葉にハルカはくすくす笑う。

「その頃から人込が嫌いだったのね。」

「人込が好きな人なんていないと思うよ。ただ、それを乗り越えてでも楽しめる人が祭り好きな人なんだ。」

君みたいなね。

ハルカは笑ってシュウの顔を覗き込んだ。

「シュウは?シュウは今日お祭りに来て楽しかった?」

「……今までのトータルで言えばまあまあ。」

「素直に楽しかったって言えないの?」

ハルカがむくれる。

プイと顔を背けたハルカにシュウは手を伸ばす。

「でも、この祭りから帰る頃には楽しかったって言えると思うよ。」

顎を掴んで自分の方を向かせ、シュウはハルカに口付ける。

「んっ……んんっ!」

舌を入れ、乱暴に口内をかき回し、優しく吸い上げる。

顎に掛けた手はそのままに、シュウはもう一方の手を座ったハルカの足に伸ばした。

浴衣の裾を割り、彼女の内股に手を這わせる。

妖しい手の動きにハルカは震えた。

「……何だ、下着つけてるのか。つまらない。」

銀糸を滴らせながらシュウは呟く。

「当たり前でしょう!現代で浴衣着るのに下着つけない人なんていないわよ!」

唇を離されての第一声がそれだということに、ハルカはカッと顔を染める。

月明かりの中でも見えるそれに、シュウはニヤリと笑った。

「でも、胸には着けてないみたいだね。」

ハルカは咄嗟に胸元に手をやる。

その手をシュウは掴んだ。

「襦袢を着てるから平気だって思ってた?ダメだよ、ハルカ。下着用の和服とは言え、襦袢で隠せるものなんてたがが知れてるさ。」

この柔らかい膨らみはそんなものじゃ誤魔化せないよ。

シュウは浴衣の上から胸を揉む。

「やっ、やん!」

「浴衣は君みたいに胸の大きい人には苦しいだろうからね。脱がせてあげるよ。」

抵抗しようとしたもう片方の手もまとめて捕らえてしまう。

浴衣をはだけて、肩をむき出しにした。

「……思わず噛みたくなるよね。」

月明かりに照らされて、ハルカの肩は白くまろやかに彼を誘う。

「でも、それは後で。」

シュウは胸元の浴衣をもはだけてしまった。

優しく胸を揉む。

「やっ!」

「やっぱり、手触りは何も着けてない方がいいね。」

もう片方の胸に手を伸ばすと、ハルカは身をよじって抵抗した。

「ほら、嫌じゃないんだろう。力を抜きなよ。」

「何でそうやっていつも決め付けるのよ!」

「君が本気で逃げようとしてないから。」

束ねたハルカの手を示す。

「いくらぼくが男でも、君が本気で抵抗したら、片手じゃ掴んでいられないよ。」

ペロリとハルカの胸を舐めた。

小さく声を上げるハルカに、不敵な笑みはますます強くなる。

「獲物を逃がさないんじゃなくて、獲物が逃げないのさ。」

シュウはハルカの手首を放してやる。

ハルカは悔しそうにシュウを睨みつけるだけだった。

「ほら、そんなに煽らないで。涙目で睨んでも誘ってるようにしか見えないよ。」

美味しそうな肩を甘噛みすると、ハルカの体が跳ねた。

「君は逃げない。ぼくに抱かれたいんだろう?」

噛んだ所を舐めて、再び胸に唇を落とす。

いくつかキスマークを付けていると、ハルカが小さく呟くのが聞こえた。

「……シュウの嘘つき。」

乱れた呼吸を整えながらのその言葉に、シュウは顔を上げる。

「今日はお祭りを楽しむだけって言ったでしょ……。」

上気した頬が艶っぽい。

「君が浴衣を着るのが悪い。」

シュウはハルカの顎に指を掛けながら言う。

君が悪い。

こんな格好をしてきて、ぼくが何も感じないと思ってるんだから。

そう、ぼくを誘う君が悪いんだ。

「だってー、お祭りだもんっ!」

ハルカは脱げかけた浴衣の中で最後の抵抗を試みる。

「浴衣だからって襲われてたら体がもたないかも!」

「君が自分からぼくに抱かれるんなら君も楽しいし、抵抗しない分そんなに疲れないよ。」

シュウはハルカの鎖骨に口付ける。

「んんっ!」

ピクリと跳ねた体は月明かりに白く映え、何とも妖艶で悩ましい。

「美しいよ、ハルカ。」

シュウが唇を鎖骨に当てたまま言う。

ハルカは初めて気付いた。

月に照らされ白く浮かぶのは自分だけではないことに。

自分に口付けるシュウの頬は白い中にも赤い。

上目遣いに見上げてくる彼の緑の瞳にはちらちらと欲情が見え隠れする。

そのコントラストがとても美しかった。

思わず心臓が跳ねる。

「シュウ……。」

「うっ……。」

名前を呼んだ時、突然彼が苦しそうに目を閉じた。

荒い呼吸のまま目を開け、シュウはハルカの髪飾りに手を伸ばす。

シュウに翻弄され解け掛けていた髪は、はらりと散らばった。

その髪をシュウは指に絡める。

「君はとても美しいよ、ハルカ……。もう我慢できない。今すぐ君が欲しい。」

シュウはハルカの肩に手を置き、優しくその身を横たえた。

優しい動きとは裏腹に、その手は燃えるように熱かった。

「ハルカ……。」

シュウがハルカの顔の傍に両手をつき見下ろしてくる。

ハルカは彼の首に手を回し、彼の顔を引き寄せた。

「愛してるよ。」

シュウの言葉は互いの唇に飲み込まれた。




「いくよ、ハルカ……。」

浴衣の裾をはだけ、シュウはハルカの蕾に彼自身を押し付ける。

そして、ハルカの返事も聞かないまま、一気に彼女を貫いた。

「ああっ!」

仰け反る体を押さえつけ、普段より激しい律動を刻み、ハルカの体を蹂躙していく。

いつも以上に自分の呼吸が荒いのを感じ取り、シュウは苦笑する。

「何笑って……っ!」

ハルカの疑問を強く突くことで封じてしまう。

疑問を持つくらいなら、ぼくを見て。

こんなにぼくを興奮させた君にはそれくらいしてもらわないと割りに合わない。

思考も理性もとうにどこかに行ってしまった。

本能ですら、脱げ掛けた浴衣に包まれている君に持っていかれそうだ。

「はっ……やっ……ああっ!」

ハルカが喘ぐ度に締め付けられる。

その締め付けに意識を奪われかけながらも、シュウは律動を刻み続けた。

「やあっ!」

ひときわ強く突いた時、ハルカの限界がきた。

同時に、全身に響く爆音と自身の限界を感じる。

彼女の中に欲情を吐き出しながら、ちらりと空を見上げると、夜空に大輪の花が咲いていた。

色とりどりの花を美しいと思う間もなく、シュウの視界は白く染まった。




「……ュウ、シュウってば!」

シュウはぱちりと目を開けた。

「あれ……?」

シュウはハルカを抱きしめながら眠っていた。

起き上がりかけて、まだ自身がハルカと繋がっているのに気付く。

今までのことが一気に頭に流れ込んできた。

思わず顔が赤くなる。

「気絶したのなんて初めてだ……。」

片手で目元を覆うと、ハルカのくすくす笑いが聞こえた。

「……何がおかしいんだい?」

「それだけ気持ち良かったんでしょう?だったら、浴衣を着てきた甲斐があったかも。」

シュウがわたしの中に入ったまま気絶するなんて貴重なものも見られたし。

ハルカの言葉にシュウはますます顔を染める。

「そろそろ抜いてよ、シュウ。花火も終わっちゃったし、早く帰らないと。」

「……嫌だ。」

シュウは再びハルカを突く。

「っ!シュウ!?」

「君が悪い。君が誘うのが悪い。君が浴衣を着てくるのが悪い。」

自身が再び硬く大きくなっていくのを感じる。

「君がぼくの心を奪うほど美しすぎるのが悪い。」

体を押し返そうとするハルカの腕を草地に押さえつける。

「ぼくばっかり不公平だ。君にも気絶するまで感じてもらう。」

「やめてよ、シュウ!早く帰らないと、みんな心配して――っ!」

小言ばかりの白い喉に噛み付く。

ハルカの喘ぎが直接伝わってきた。

「そんなこと考えなくていい。君はぼくだけ見ていればいいんだ。」

立てた歯を離し、噛み付いた喉を舐める。

シュウは律動を刻み続けた。




祭りの翌日。

4時間目の授業は数学。

シュウは黒板を眺めながらため息をついた。

ダメだ!授業に集中できない!

黒板に書いてある数字が目の上を滑っていく。

昨日、射的で貰ったトランプの幾何学模様並に意味が分からない。

トランプ――それを抱きしめて笑っていたハルカの顔が頭に浮かぶ。

そして、次に何をしたか、何があったか。

うわあああっ!!

シュウは思わず頭を抱える。

月明かりに白く映えるハルカの肢体を思い出す。

そして、それを彩る赤の浴衣。

白と赤のコントラスト、強調される肌の柔らかさ。

ハルカの中の熱さまで思い出し、顔が真っ赤になるのをとめられない。

あの後、ハルカは何度もイってるのに、なかなか気を失ってくれなかった。

イった回数で言えば、自分の方がずっと多いだろう。

……気絶はもうしてないけど。

やっとハルカが意識を飛ばしてくれたのが、祭りが終わってかなり経った頃。

しばらくして目を覚ましたハルカに浴衣を着付けてやり、立てなくなったハルカを背負って帰ったのだった。

着付けを習っていて、こんなに感謝したことはない。

そこでまた背中に感じた熱さと柔らかさを思い出す。

目の前にちらちらと光が瞬きだした。

昨日のハルカはかわいすぎ……!

ハルカの席にチラリと目をやる。

ちょうどハルカもこちらを見ていて、バッチリ目が合ってしまった。

お互い、慌てて顔を逸らす。

シュウは昨日のように目元を覆った。

ああ、今のぼくは誰から見ても挙動不審なんだろう。

指の隙間からもう一度ハルカを見る。

俯いていて表情は見えなかったが、耳まで真っ赤になっていた。

そして君も。

ぼく達は今日一日ずっとこんな調子なんだろう。

互いに酔いしれて、日常に戻って来られない。

これが祭りの魔力、異世界の名残。

当分は祭りに誘われても行かないことにしよう。

シュウはそう決心していた。

 

 

 

 

 

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