蒼海は歌う 愛と喜びを 〜花開いたライラック〜
「ああ、寒かったー!」
彼女が歓声を上げて部屋の中央に走り寄る。
ライラック号のデッキでシンオウ地方を見送っていたぼくと彼女はようやく船室に戻ってきた。
冷たい潮風の吹く船上から暖かい船内に入った時も嬉しかったが、このほっとする空気は部屋の中だけのものだ。
しかも、部屋に戻る途中、ポケモンセンターに寄ってポケモン達を預けてきたから、部屋に入るのは随分久しぶりのような気がする。
「あったかいって気持ちいいかも!」
優しい空気が嬉しいのか、彼女は嬉しそうにはしゃいでいる。
しかし、ぼくが返事をしなかったせいか、彼女は首を傾げて振り返ろうとした。
ぼくはそれを彼女の体に手を回すことで阻む。
ぎゅっと抱きしめると、はしゃいでいた彼女が大人しくなった。
「確かに、温かいというのは気持ちがいいものだよ。」
彼女のうなじに顔をうずめる。
「でも、君は温かくないね。」
首筋から耳の後ろにかけてのラインを舐めると、彼女は体を震わせた。
「こんなに冷え切って……。ぼくが温めてあげる。」
「シュ、シュウ!」
彼女が慌てたように首をひねる。
ぼくの目と彼女の瞳がぶつかった。
「あの、それって……。」
「君は嫌?」
自分の声がかすれているのが分かる。
「ぼくは君を温めてあげたい。そして、君に温めてほしい。」
冷え切った体の奥で微かに熱が動いた気がした。
「君の体温が欲しい。君が欲しいよ……。」
ぼくの言葉に、彼女は困ったようにぼくから視線を逸らした。
「で、でも、昨日初めてしたばっかりだし……。」
「ぼくに抱かれるの嫌い?二回目がこんなに早いのは嫌?」
「嫌じゃないよ、シュウ。でも……。」
彼女は絨毯の敷かれた床に視線を落とす。
「どうしていいか分からないの……。自分がどうなるのかまだ分からない、恥ずかしいの……。」
彼女の耳が真っ赤になっている。
俯いて顕わになった彼女のうなじにぼくは再び唇を落とした。
「ただ自分の思うままに動けばいい。どうしたいのか、それが分かればどうしたらいいのか分かるんだろう?」
うなじに唇を当てたまま、言葉を紡ぐ。
彼女の体から喘ぎが伝わってきた。
「わ、わたしは……。」
少しずつ彼女の冷たい体が火照っていく。
この熱が欲しい。
彼女が欲しい。
「あなたが欲しい……。」
回した腕に彼女の熱を持ち始めた手が添えられた。
ベッドに誘い優しく寝かせると、彼女は潤んだ瞳でぼくを見上げてきた。
「ハルカ……。」
彼女に覆いかぶさり、そのまぶたに口付ける。
そして、もう片方の瞳にも。
両目を閉じさせ、最後に唇を合わせた。
彼女の熱い口内を舌で犯す。
彼女は優しく応えてくれた。
互いの舌を絡ませ、互いを感じ合う。
軽く彼女の下唇に噛み付くと、彼女はぼくの唇を舐めてくれた。
唇を放しても、銀糸は彼女とぼくを繋いでいる。
「君が好きだよ……。」
「わたしもあなたが好きよ……。」
プツリと切れた銀糸を追いかけ、ぼくは彼女の首筋に顔をうずめる。
彼女の首筋を吸い上げると、彼女の喘ぎが聞こえた。
彼女の脇腹を撫でる。
服の上からでも分かるくびれがぼくを誘う。
上着に手を入れる。
触り心地の良い肌着の上から撫でると、彼女がくすぐったそうに啼いた。
首筋に唇を付けていると、その振動が伝わってくる。
それがとても気持ち良くて、もっと声が聞きたくて、ぼくは肌着の下へと手を滑り込ませた。
「柔らかい……。」
きめ細やかな感触がとても快い。
体を支えていたもう一本の腕もハルカの服に入れた。
手の平を優しく滑る肌。
きっと昨日見たように綺麗なんだろう。
「はぁっ……。」
ハルカの声にそそられる。
我慢できなくなって、身を起こした。
「シュウ……?」
体を離したぼくにハルカが不思議そうな目を向ける。
「ごめん、ハルカ……。」
「え?」
ハルカの疑問に答えず、ぼくは彼女の服に手を掛ける。
急ぎすぎて少しだけ乱暴になってしまった手つきで彼女の上半身の服を剥ぎ取った。
胸を覆っていた下着を絨毯に投げ捨てて振り返ると、ハルカは頭上にあった大きな枕に半分顔をうずめていた。
彼女は顔を背けているから表情は見えないけど、耳が真っ赤になっていた。
ハルカの脇腹に指を這わせる。
「これが見たかった……。」
昨日と同じ白い肌、扇情的でむしゃぶりつきたくなるライン。
昨日初めて見た時と違うのは、その白に散った沢山の薄紅色。
あれから一日も経っていないから消えていないのは当たり前なのだけど、自分が彼女に触れたという証が残っているのはこの上なく嬉しかった。
「ハルカ……。」
腹から胸へと撫で上げる。
豊かで柔らかな胸をすぐに触ってしまうのが惜しくて、周りを揉むように撫でていると、彼女の濡れた声が聞こえた。
「何だい?」
枕にうずめられた頬に手を当て、その隠された顔を仰向けに返す。
潤んでとても綺麗であろう瞳は伏せられたままだったけど、今度はちゃんと聞き取れた。
「どうしてキスしてくれないの……?」
予想外の言葉にぼくは驚いた。
いきなり服を乱暴に脱がせたぼくに対する抗議だと思っていたから、その驚きは大きかった。
「昨日みたいにキスしてほしい……。」
恥ずかしさのあまり消え入りそうな声で呟く彼女。
愛しくて愛しくてたまらなかった。
シーツに横たわる彼女を抱きしめる。
胸に顔をうずめると、彼女の肌の匂いがした。
彼女の要望通り、彼女の胸の谷間に口付ける。
昨日付けた痕を避けて白を赤で染める。
少しずつキスを重ねていって、張りのある胸に上っていった。
頂に辿り着き、そこにもキスをすると、彼女の体が跳ねた。
ぼくのキスに反応してくれる彼女が愛しくて、キスだけじゃ足りなくなった。
「ああっ!」
とがって硬くなった頂にしゃぶりつき、舌で優しく撫でると、彼女が声を上げた。
「やっ、シュウ、恥ずかしいっ……!」
「どうして?とても可愛いよ、ハルカ……。」
前歯で甘噛みしながら、もう片方の頂を指でつまんだ。
「ふあっ……やっ……。」
親指と人差し指の腹で軽く擦ると、彼女は抑えきれない快楽に啼いた。
ああ、その声、もっと聞きたい。
頂を親指で胸に押し込む。
弾力に富んだ彼女の胸は強く押し込めば押し込むほど、ぼくの手を柔らかく包んだ。
「ああっ……。」
目をぎゅっと閉じた彼女が手元のシーツを強く掴む。
快楽に堪えきれないんだろう。
頂から口を放して彼女の胸に優しく指を食い込ませる。
やわやわと両手で揉むと、彼女はさらにシーツにしわを寄せた。
気の済むまで胸を舐めて弄った後、ぼくはようやく彼女の下半身の衣服に手を掛けた。
彼女は胸への刺激でもういっぱいいっぱいなのか、激しく呼吸を繰り返している。
スパッツを脱がすと、大きく染みのにじんだ下着が顕わになった。
「ハルカ。」
顔を覗き込むと、わずかに目を開けた。
頬は上気しているのに、もう瞳はトロンとしている。
ぼくを映してほしい。
彼女の目を覗き込んだまま、下着の湿った部分を指できゅっと押してみた。
「ああっ!」
その瞬間、彼女が目を見開いた。
トロリとした快楽が消え、激しい快楽がそれにとって変わる。
同じ快楽に酔っているのなら、目を閉じるのではなくてぼくを見て。
下着の上から優しく擦ると、彼女の声と共に染みはどんどん大きく濃くなっていった。
彼女がぼくの指に感じている。
その表情がとても愛しくて、ぼくは彼女にキスを贈った。
唇を合わせたまま指を動かすと、ぼくの口の中で彼女が喘ぐ。
その喘ぎに舌を絡ませ、彼女の力が抜けるまで、ぼくは彼女の唇を味わい続けた。
もう下着の意味を成していない最後の一枚を脱がせて捨てる。
濃厚なキスと下半身への刺激で、彼女は涙をにじませ息を切らしていた。
ぼくはそんな彼女の背中に手を回しゆっくりと起き上がらせる。
「なに、シュウ……?」
焦点の合わない視線とあやふやな声で彼女がぼくに問いかける。
「ぼくが君を欲しいと言ったこと、覚えてる?」
質問で返したぼくに彼女は頬を赤らめたままで頷いた。
ぼくは彼女の耳に唇を寄せる。
「だったら、それがどういう意味か分かる?」
耳に息を吹きかけると、彼女はふるふると震えた。
「わ、わたしの……。」
「君の?」
「……。」
「君の、何?」
重ねて問うと、彼女は泣きそうな顔で首を横に振った。
「そんなの恥ずかしくて言えないよぅ……。」
「言って、ハルカ。」
後ろに回した手で背筋をゆっくりと辿る。
腰のくぼみに指を置くと、彼女が小さく息を漏らした。
「ね、ハルカ。君の体はとても魅力的だけど、ぼくが望んでいるのはそれだけじゃない。これは分かるね?」
話題が逸れたことに安心したのか、彼女はコクリと頷く。
「ぼくは君の心も望んでいる。君の心に入りたいと。君の心をぼくだけで満たしたいと。君の体に望むことを心にも望んでいる。」
再び彼女が小さく頷く。
ぼくは彼女を胸に抱きしめた。
「そして、心と体は一つ。ぼくは君に受け入れられたという証が欲しいんだ。」
「証……?」
「そう、証。」
片手で彼女の背を撫でつつ、もう片方の手で今まで彼女が使っていた大きな枕を引き寄せる。
それを前の壁に立てかけた。
「ぼくを感じているという証はその声で、ぼくが君の全てを満たしているという証はその瞳で示してほしい。」
彼女の膝の裏に腕を回し、ベッドから彼女を浮かせる。
わずかな距離を中腰で移動し、彼女を壁際の枕に寄りかからせた。
「ハルカ、その瞳にぼくを映して。目を逸らさないで。ぼくだけを見つめて。」
じっと見つめていると、彼女は視線をぼくと絡ませたままコクンと頷いてくれた。
「さあ、ハルカ、脚を広げて。」
その言葉に彼女は恐る恐る膝を立てる。
「もっと。」
せかすと顔を逸らして、それでも膝を高く立てて精一杯開いてくれた。
この世界でぼくだけしか見られないであろうその光景にぼくは釘付けになる。
隠されていた割れ目は顕わになり、鮮やかに薄紅色に染まっている。
花びらの奥に大切にしまわれていた彼女の秘密がぼくの視線にうごめき、蜜でシーツを濡らしていた。
「綺麗だ、ハルカ……。」
ぼくのためだけに存在する美しさだと自惚れてしまう。
自然と喉が鳴った。
「シュウ……?」
姿勢を低くしたぼくに彼女が不思議そうに声をかける。
ぼくが何をしようとしているか分からないんだろう。
「昨日はぼくも君が欲しいばっかりに急いでしまったから。」
いきなり指で蕾を広げた後すぐに自分を挿れて。
初めての体験で怯えていた彼女に随分負担をかけてしまったように思う。
「今日はちゃんと気持ち良くさせてあげる。」
ぼくは彼女の割れ目の上部にある小さな突起に舌を這わせた。
その瞬間、彼女の体が大きく跳ねる。
「やっ!やあっ!」
「感じる?気持ちいい?」
「ああっ!」
ペロリと舐めただけでこの反応。
「感じてくれてるんだね。」
嬉しくなって、彼女の突起を口に含んだ。
「はっ!はあっ!やあっ!」
彼女が何とか刺激から逃れようと両手で頭を押さえつけてくる。
ぼくの口をこの小さな芽から離せば、その激しい快楽からも逃れられると考えているんだろう。
ぼくは暴れる彼女の脚を抱えてより強く唇を彼女に押し付けた。
口の中で芽を転がし、何度も舌で弾くと、彼女の喘ぎが大きくなっていく。
「あああっ!!」
強く吸い上げた瞬間、彼女の力が一気に抜けた。
汗だくの体をぐったりと枕にもたせかけ、だらりと腕を下げている。
熱い吐息がぼくの髪を揺らした。
「気持ち良かった?」
離すと崩れ落ちそうな気がして、彼女の脚を抱えたままで顔を見上げると、彼女は力の入っていない瞳をぼんやりと開いた。
上目遣いに見つめていると、やがて彼女が小さく唇を動かす。
「おかしくなりそうな気がした……。」
「どんな風に?」
「本当にシュウのことしか考えられなくなって……。」
「うん。」
「その内、シュウのことも考えられなくなっちゃいそうな感じ……。」
ぼくのことしか考えられなくなるというのはいいけど、ぼくのことも忘れて快楽を追いかけるというのはちょっと気に入らない。
でも――。
「それだけの気持ち良さをぼくが与えられたのなら嬉しいな。」
彼女がこれだけ思考を飛ばすのも、ぼくを愛しているから。
愛しているからより強くぼくを感じてくれる。
「ハルカ、ぼくのこと好き?」
「うん……。」
「ありがとう。」
彼女を見上げてお礼を言うと、彼女は微笑んでくれた。
「ぼくを愛してくれてありがとう、ハルカ。」
彼女に笑いかけて、もう一度膝を立て直す。
今度は内股に唇を這わせた。
いくつも赤を散らしたり、その痕を舐めている間にも蕾からは蜜が溢れてくる。
彼女の呼吸が落ち着くまでと思っていたけど、シーツに染み込んでいく愛の証が勿体無くて、ぼくは彼女の蕾に唇を合わせた。
「ふあっ!」
彼女の喉が反り返る。
驚くほど沢山の蜜が溢れてきた。
彼女の中に舌を滑り込ませる。
熱い内壁と蜜が舌に絡み付いてきた。
それをもっと感じたくて、彼女の脚を引き寄せる。
顔に彼女を密着させ、舌を奥まで差し込んでは彼女を味わった。
二度も達して、枕に寄りかかっていても姿勢を保てなくなった彼女がシーツに横たわって息を切らしている。
ぼくはその弛緩し切った白い裸体を見ながらベルトの金具を外した。
彼女はぼくだけ服を脱がないのは不公平だと思っているらしいから、本当は脱いであげたいんだけど。
でも、もうぼくも限界だった。
さっきからズボンのふくらみが彼女を欲して言うことを聞かない。
ベルトを緩め、ジッパーを下ろそうとしていると、シーツに手をついて彼女が起き上がった。
「ハルカ?」
相当だるいはずなのに、彼女は腕を使ってぼくに近づいて来た。
しかし、ぼくの傍まで来た時、やはり無理をしていたのか、彼女は肩から崩れ落ちてしまう。
「ごめん、無理をさせて。」
シーツに散った彼女の髪を撫でる。
「もう少しだけ君をちょうだい。それが終わったら寝かせてあげるから。」
その時、彼女が伏せていた顔を上げた。
力なく横たわる体とは裏腹な強い視線とぶつかる。
「ハルカ?」
「……シュウ、わたしの言ったこと、聞いてたようで聞いてないでしょ。」
ぼくは彼女に怒られるようなことをしただろうか?
ぼくが今までの行為を振り返って考えていると、彼女はぼくが答えを出すなんて最初から当てにしていない様子でぼくに手を伸ばした。
ジッパーを下げられ、ズボンから自身を引き出される。
「っ!?」
彼女の手の柔らかさと絡みつく指にまた自身が大きくなったのを感じる。
「……わたしだってシュウにいっぱいキスしたい。シュウの喜ぶこといっぱいしてあげたい。シュウにわたしを感じてほしい。」
彼女が肘を使って身を乗り出してくる。
「わたしはあなたが欲しいの。」
その時、彼女のしようとしていることが分かった。
「……いいの?」
「本当はこれだけじゃなくてもっとシュウを気持ち良くしてあげたいけど、体に力が入らないから。だからごめんね。」
彼女がぼくの先端をくわえた。
片肘で何とか体を支え、もう片方の手をぼくに添えている。
そうやって一生懸命ぼくを気持ち良くしようとしていた。
「ハルカ……。」
慣れないことに戸惑いつつも、舌を絡め、ぼくを欲してくれる彼女。
たまらなく愛しくて、ぼくは彼女の髪を撫でた。
「とても嬉しいよ、ハルカ……。」
彼女の舌のザラリとした感触がゆっくりと動いていく。
その柔らかさがとても気持ちいい。
ドクドクと脈打つ下半身がさらに熱を帯びた。
やがて、ぼくは彼女の口の中ではちきれんばかりに成長する。
「もういいよ、ハルカ。」
ぼくの言葉に、彼女はぼくを離したものの、首を傾げてこちらを見上げている。
「君の中でイキたいんだ。」
本当はもっと色々したかったけど。してもらいたかったけど。
でも、それだと君がもたないだろうから。
「ぼくを愛してくれる君の中でぼくも君を愛するよ。」
せめて君と一緒に果てたい。
ぼくは仰向けになった彼女に覆いかぶさり、再び開かれた蕾にぼくを添える。
彼女がぼくの背中に両手を回した。
「いくよ、ハルカ……。」
ぼくはゆっくりと彼女の中に腰を進めていった。
「あついかも……。」
彼女の手がシーツを払いのける。
互いに果てて、荒い呼吸を繰り返しながらしばらく抱きしめ合った後。
体を離して、彼女に新しい枕をあてがった。
彼女がもたれていた枕は自分の物に。
横になって互いに向き合う。
そして、彼女の体にシーツをかけようとすると、彼女はそれを鬱陶しそうに振り払った。
確かに、行為が終わった後も互いの熱はなかなか引かなかった。
しかし、服を着たままだったぼくとは違い、彼女は裸だ。
このままでは体を冷やしてしまう。
「ほら、そんなこと言わないで。風邪でも引いたら大変だよ。」
「でもやだ……。」
汗の引かない肌にシーツの感触が気持ち悪いのだろう。
寝心地が良くないのか、ベッドの上で小さくぐずっている。
「先にシャワーでも浴びるかい?」
「だるいから後で……。」
「じゃあ、体が冷える前にシーツをかぶらないと。」
「やだ……。」
「ハルカはわがままだね。」
頬にかかる髪を指で払ってやると、むうとふくれた。
「どうせわがままだもん……。」
彼女は拗ねたように寝返りを打ってこちらに背を向ける。
ぼくは彼女の体に腕を回した。
柔らかい胸がちょうど手の平の位置に来る。
「わがままな子どもでも風邪を引くのは可哀相だっていうぼくの親心は理解してくれないのかい?」
そのまま抱き寄せる。
彼女もぼくの枕の上へ。
「……シュウは親じゃなくて恋人だもん。」
「恋人のお願いなら聞かなくてもいいのかい?」
「……。」
彼女は無言でもう一度、今度はぼくの腕の中で寝返りを打つ。
胸に潜り込んで、ぼくの服をぎゅっと握った。
「シーツなんて暑いだけだもん。シュウだったら熱くても気持ちいいから風邪なんて引かないかも。」
「君という人は……。」
胸に頬をすり寄せてくる彼女の髪を軽く撫でる。
「君はぼくにシャワーも浴びず、寝返りも打たず、シーツもかぶらないで、ずっと君を抱きしめていろと?」
「……ダメ?」
「いいや、恋人へのお願いとしては最高の部類に入るね。」
背中を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。
布の上からでも分かる彼女の熱さが心地良い。
「ハルカ、少し眠るかい?」
壁に掛けられた時計を見上げる。午後4時過ぎ。
「今夜は大広間でパーティーが開かれるんだ。7時からだから結構眠れるよ。」
「おいしいもの食べられる?」
パーティーと言えば料理といういつまで経っても花より団子の彼女。
そんな彼女にこれ以上無いほど色香を感じる自分は相当彼女に惚れ込んでいるのだろう。
「……何笑ってるのよ?」
「いいや、何でも。それより、ライラック号は豪華客船だから料理も豪華だし、ぼく達も動いた後だからおいしいと思うよ。」
「だったら楽しみかも。」
彼女がごそごそと動いた。
心持ち、ぼくに重なるように体を密着させてくる。
そして最後にポスッとぼくの胸に頭を乗せて目を閉じた。
「おやすみ、ハルカ。」
「……。」
返事が無かったから顔を覗き込んでみると、もうすやすやと寝息を立てていた。
「やれやれ……。」
可愛いことだ。
彼女が眠っているのを確認して、たぐり寄せたシーツを掛けてやる。
「君が目を覚ますまで抱きしめているから怒らないでくれよ……。」
シーツでくるんでやると、やはり嫌なのか、それを避けるようにぼくにくっついてきた。
ぼくとシーツ、熱さと布の感触は変わらないはずだけど、その違いはきっと彼女にしか分からないのだろう。
「ゆっくりおやすみ、ハルカ。」
ぼくは柔らかな体を抱きしめてしばしの眠りについた。