伝えたいことは

 

 

 

 

トバリのゲームセンターが従業員急病により臨時休業に追い込まれていた頃。

二人はゲームセンターから少し離れたトバリデパートに来ていた。

「あ、ねえねえ、シュウ。今、”世界の花の観賞展”なんてやってるよ。」

「へえ、君が花に興味を持つなんてね。」

「なーんかヤな感じかも!わたしだって花は好きよ!」

「はいはい、じゃあ行こうか。」

「あ、誤魔化さないでよー!」

じゃれ合いながら二人はエレベーターに乗り込んだ。






デパート最上階の特設会場。

ハルカがはしゃぎながら花の間を駆けていく。

それはまるで花から花へ飛び回る蝶のようで、シュウは目を細めてそれを見守っていた。

「ねえねえ、シュウ!このピンク色の花なに?」

「これはカランコエ。花言葉は”君を守る”。」

「この花は?何か変わった咲き方してるけど。」

「ルピナス。”君はぼくの心に安らぎを与える”。」

「あ、この花、どっかで見たことあるけど思い出せないかもー。」

「くちなし。”ぼくはあまりにも幸せです。”」

「……シュウ、何でも知ってるのね。」

「好きだからね。」

「わたしだって花好きなのにー。」

ハルカはむーっとふくれる。

同じ好きでも何だか負けている気がして悔しいのだ。

キョロキョロ辺りを見回したハルカはパッと顔を輝かせてある花に近づく。

「じゃあこれ!珍しいし、シュウも知らないでしょ!」

「カトレア。花言葉は”君は美しい”だよ。」

「……。」

「何だい?」

「花言葉、もう一回言って。」

「君は美しい。」

「もう一回。」

「君は美しい。」

「……。」

ハルカは無言でシュウに抱きつく。

「いきなりどうしたんだい?」

「……それが花言葉なんかじゃなかったら良かったのに。」

どんなに素敵な花言葉でも、彼の口からただ紡ぎだされるだけの言葉。

花言葉でなかったら、その言葉は彼からわたしに贈られた本当の言葉になるのに。

ハルカは少しだけ寂しくなって、シュウの胸に顔をうずめる。

シュウはその髪を優しく撫でた。

「ハルカ、あの白い花を見てごらん。」

「……あのいっぱい咲いてる花?」

「そう、あれはラークスパーと言う。花言葉は”ぼくの心を読んでください”。」

「心……。」

「君の指差した花、君はてっきり花言葉を知っていると思っていたんだけどな。」

シュウはぎゅっとハルカの体を抱きしめる。

「君も知っての通り、ぼくは天邪鬼だからね。そんなぼくに本心を言わせるために指差してると思ってた。」

「……花言葉なんて一つも知らなかったかも。」

「なら、覚えていて。花の持つ言葉の意味を。ぼくがずっと君に赤い薔薇を贈り続けていた意味を。」

「赤い薔薇の花言葉は?」

「”真実の愛”だよ。」

シュウは柔らかくハルカに口付けた。






『デパートでイチャイチャしないでくださいー!』

特設会場の店員さん達の心の声が二人に読まれることはなかった。

 

 

 

 

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