薄暗い証明の中、カードをめくる音が心臓の音と共に大きく響く。
店に流れる静かな音楽も男の耳には入っていなかった。
男が注目し、神経を研ぎ澄ませているのはたった一つ。
男の汗が頬を伝って落ちた瞬間。
「コール。」
テーブルに置かれたカードの示すもの、それは目の前の少年の勝利。
「バ、バカな……。」
「またぼくの勝ちですね。」
そして少年はすぐに次の勝負へと進む。
「な、何故そんなに強いんだ……、君は何を求めてそんな……。」
男の喘ぐような言葉に涼しい目をした少年は一言。
「欲しいものがあるんです。」
「ハルカ。」
「シュウ!待ってたわ!渡したいものがあったの!」
少年は公園で待ち合わていた少女の元へ駆けていく。
時間にルーズな彼女にしては珍しく、約束の5分前に来ていた。
「シュウ、これ受け取ってほしいの!」
少女が差し出したのはジュースの缶ほどの筒。
「その前に、ぼくの贈り物を受け取ってほしいな。」
少年は少女に一抱えほどある袋を渡す。
少女は首を傾げながらそれを受け取り開いた。
中から出てきたのは――
「わあっ!」
ゴンベの実物大ぬいぐるみだった。
「どうしたの、コレ!?」
「ちょっとある所で見つけてね。」
「ゴンベ、この前進化しちゃって、もうこの姿見られないかと思って寂しかったの!ありがとう、シュウ!」
「どういたしまして。」
少年はゴンベのぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめる少女を眺める。
先程までとは違い、頬が優しく緩んでいた。
「あ、じゃあ、コレはお礼も兼ねて!シュウ、受け取って!」
少女が今度こそ少年に筒を手渡す。
少年が筒のふたを開けると、中から透き通ったフライゴンが出てきた。
「クリスタルのフライゴン……?」
「ね、凄いでしょう!?」
「ああ、凄い……。どうして君がこんなものを……。」
「うん、ちょっとね!それより気に入ってくれた?シュウ、嬉しい?」
少女こそ嬉しそうに少年の顔を覗き込む。
少年はそんな少女の頭を優しく撫でた。
「ああ、気に入ったよ。でも、何より嬉しいのは、これをぼくにくれた君の気持ちかな。」
少女はパッと顔を輝かせる。
少年に抱きつく代わりに、もう一度ぬいぐるみを抱きしめた。
「シュウ、ホントにありがと!」
「こちらこそありがとう、ハルカ。」
「本日の売り上げ、ワースト1です、最低記録です、マイナス更新です……。」
「何なんだ、今日の女の子は……只者じゃない……。」
「カードのテーブルでコインを積み上げていた少年、あの目は本物だった……。」
「それよりも、スロットでは50連チャン出ましたよ……。」
「9連チャンが昨日までの最高じゃなかったのか……?」
「一点モノのゴンベのぬいぐるみが……最高級素材と最高の職人が作ったプレミア物だったのに……。」
「クリスタルのフライゴン、うちの目玉にしようと思って、達成不可能のコイン1万枚の景品に設定してたのに……。」
屍となった従業員達のうめき声が聞こえる店内。
皆が噂しているのは、本日ご来店いただいた二名のお客様。
天然ギャンブラーの少女と、超ポーカーフェイスで恐ろしいカードを揃える少年。
一人はスロットで、もう一人はカードでコインを山積みし、店の看板を掻っ攫っていった。
そんな店の名前は「ゲームセンタートバリ」。
店の出入り口にはお客様への張り紙がしてある。
”またご来店ください”
「もう二度と来るなー!!」
店長の声が外まで響き渡った。
シンオウマイナスシリーズinトバリ 追い求めるものは (終わり)