タンゴよりも情熱的に 2

 

 

 

 





「やっと来たわね、シュウ。」

シュウの目の前にはハルカが仁王立ちしていた。

シュウは軽い眩暈を覚える。

このパターン、前にもあった。

ここは禁じられた森に程近い岩と茂みばかりの寂しげな場所。

ここまで来れば、シュウもハルカが口を開く前に目的が分かってしまう。

「……また決闘かい、ハルカ?」

「当然かも!」

ハルカは杖をシュウに突きつける。

シュウも今回はハルカに先制される前に杖を手にした。

「……考え直さないかい?」

「いやよ!負けっ放しって悔しいじゃない!」

……ハルカは当初の目的を忘れ去っている。

確か、最初の決闘の理由は、グリフィンドールとスリザリンの代理戦争だったはずだ。

それがいつの間にか彼女の私怨にすり替わっている。

頭に血が上り過ぎて目的を忘れてしまうなんて何とも彼女らしい。

でも――。

「ぼくに抱かれたことを根に持ってるのかい?」

ニヤリと音がしそうなほど見事な笑いを見て、ハルカの顔が赤く染まる。

「そ、そんなわけないかも!」

その否定が、ぼくに抱かれたことを覚えているということに、彼女は気付かないんだろうか?

シュウは機嫌良く足を踏み出す。

「今回は手加減するつもりはないよ。君相手にそんなことをしたら――。」

「命取りよ!」

ハルカがシュウに杖を突きつけたまま、ザッと跳び退る。

「ステュービファイ!麻痺せよ!」

二人の声が揃い、呪文と呪文がぶつかり合って消滅する。

「やるわね、シュウ!」

「もちろん。君に負けるわけにはいかないからね。」

シュウは杖をそのままに次の呪文を紡ぐ。

「サー・ディフィンド!裂けよ!」

「プロテゴ!護れ!」

シュウの攻撃にハルカが盾の呪文で対抗する。

呪文が盾に直撃する直前、シュウはパチリと指を鳴らした。

その瞬間、一直線にハルカに向かっていた呪文はいくつにも分かれ、盾の死角からハルカを襲う。

「きゃあっ!」

ハルカの悲鳴にシュウは笑みを浮かべる。

ハルカの服はあちこち切り裂かれ、肌が顕わになっていた。

「な、何で呪文が分かれたり曲がったりするのよ!?」

「呪文にぼくのアレンジを加えてあるからね。」

シュウはゆっくりとハルカに近づく。

「そろそろ降参したら?胸元を押さえながらじゃ満足に戦えないよ。」

「冗談!」

ハルカはボロボロになったローブを脱ぎ捨て、攻撃に移る。

「レラシオ!放せ!」

「プロテゴ!護れ!」

ハルカの放った火花を、今度はシュウが出した盾が相殺した。

火花が散り散りになる向こうで、シュウが何かを企むように笑うのが見えた。

来る!

「リフレックス!反射せよ!」

シュウが上段から振り下ろした光が、ハルカの呪文に跳ね返された。

「なっ!?」

シュウが顔を庇うと同時に、光はシュウを直撃した。

「この間のことがあるから、絶対その呪文を使うと思ったのよ!」

呪文の後の薄い煙幕が立ち込める中、ハルカはしてやったりと笑う。

「思いっきり笑ってやるわ、シュウの猫耳!」

「そんなことのためだけに、君はこんな高度な呪文を開発したのか?」

「!?」

シュウの声がハルカの耳元で聞こえた。

振り向く間もなく、ハルカに先程と同じ光が当たる。

「きゃあっ!」

吹き飛ばされそうになった時、強い手がハルカの腰を支えた。

煙幕が晴れてシュウの顔が顕わになる。

「君のその熱意にはいつも驚かされるよ。」

その頭には猫のものではない耳が生えていた。





「猫……じゃない?」

シュウに生えた耳は、猫の耳とは違っていた。

ハルカは決闘中だということも忘れ、その耳に手を伸ばす。

茶色の毛が何重にも生えている肉厚の大きな耳だった。

「この呪文はぼくのオリジナルでね。『アニメーガス』もどきを作り出す呪文さ。」

アニメーガスとは、動物に変身する呪文を使う魔法使いのことである。

単なる変身術とは違い、恐ろしく高度な呪文であるため、アニメーガスは数少ない。

それをもどきとは言え、呪文一つで作ってしまうとは……。

「シュウこそ、変なことに情熱を傾けるのね。」

「結構役に立つんだよ。動物と人間の戦闘能力を併せ持つ魔法使いを作り出すんだから。」

決闘の最中に相手にこの呪文を掛けるのはリスクが高いんだけどね。

シュウの言葉に、ハルカは自分の今置かれている状況を思い出す。

今は決闘中で、シュウに腰を支えられていて、自分には――。

「耳と尻尾が生えてるー!」

ハルカは頭を抱える。

手に猫耳が触れた。

「さ、もう降参するんだね。」

腰に回した手とは別の方で、シュウがハルカの杖を掴む。

「いやよ!まだ負けたわけじゃないわ!」

シュウから杖を奪い返し、ハルカはしなやかな身のこなしでシュウから距離を取る。

四足をついて、シュウの全身を眺めた。

シュウは二足で立っているけれど、確かに耳が生えてるし、尻尾は――。

「狼?」

犬よりも太く長い。

それは狼の尻尾だった。

「この呪文は、掛ける人間の特性に合った動物に変身させる呪文だからね。君とぼくで違うのは当然。」

だから、こんなことも出来るんだよ。

その言葉が終わる前に、シュウはハルカとの距離を一気に詰めていた。

「なっ!?」

ハルカは高く跳躍して、シュウをかわす。

「それで避けたつもりかい?」

シュウの笑みを含んだ声がすぐ後ろで聞こえる。

振り返ったハルカの前にあったのは、シュウの杖だった。

「ルーモス・マキシマ!強き光よ!」

猫の特性で光に敏感なハルカは、生み出された強烈な光にたまらず杖を手放し落ちた。





ハルカがシュウを睨み付ける。

シュウは余裕でその視線を見返していた。

高い所から落ちても着地に失敗しない猫のハルカに怪我はない。

しかし、ハルカの杖はシュウの手の中。

勝負はあったも同然だった。

「ぼくの勝ちだね、ハルカ。」

シュウはハルカの杖を遠くの草むらに投げ捨てる。

ハルカがそちらに駆け寄ろうとするも、それよりも素早い動きでシュウはハルカを捕らえていた。

「だから、やめておいた方がいいって言ったのに。」

シュウはハルカをうつ伏せに押さえつけた。

いつもよりもずっと強い力に、ハルカは抵抗することが出来ない。

「約束通り、またぼくに抱かれてもらうよ。」

「そ、そんな約束してないでしょう!?」

ハルカは何とか抵抗して、言葉を搾り出す。

「決闘に負けた者は勝った者に従うのが約束だろう?」

「とにかく嫌!」

「だったら、抱くんじゃなくて襲わせてもらうよ。」

シュウは狼のごとく獰猛に笑い、破れかけていたハルカの服を引き裂いた。





「……っ!」

ちくり、と背中に痛みが走る度に、ハルカは小さく声を上げる。

シュウはハルカの背中に唇を落としていた。

いつものキスと違い、シュウは吸い上げる時に牙を立てている。

鋭い牙は肌を食い破り、ハルカの白い背中には血が伝っていた。

シュウはその血を丹念に舐め取る。

「……シュウ!いい加減にしなさいよ!」

十数度目、先程よりも激しい痛みが走った時、ハルカは肩越しに振り返った。

シュウはハルカの腰の辺りに口付けていた。

ハルカの制止にも耳を貸さず、牙を突き立てていく。

「つうっ……!」

その痛みにハルカは身を捩ろうとした。

が、それも狼の強い力に拒まれて、ハルカは動くことが出来ない。

涙を流して堪えるしかなかった。

「美味しいね、君の血は……。」

自分の牙が作り出した傷口から流れ出る血を、シュウは一滴残らず飲み干していく。

優しく、癒すように傷口を舐めながら、その血を貪欲にすすっていた。

「ハルカ、愛しているよ。食べてしまいたいほどにね。」

狼は傷跡を増やしていく。

ハルカはその痛みと舌の動きに翻弄されるしかなかった。





シュウの強い手が後ろからハルカの胸を掴んだ。

「やっ!」

たまらずハルカは声を上げる。

手の平から零れるほどの果実を揉みしだきながら、シュウは荒く激しい笑みを浮かべた。

「嫌じゃないだろう、ハルカ。君はこんなに悦んでるじゃないか。」

胸にやった手はそのままに、シュウはハルカの猫耳に触れる。

「やんっ!」

ピクンッと猫耳がシュウの手を打つ。

「君は悦んでるとすぐ耳に出るからね。分かりやすくていいよ。」

シュウの片手はハルカの胸を弄び、その度に猫耳は添えられたシュウの手を打った。





「やっ……はっ……やあっ!」

涙を流しながら、ハルカは背中にのしかかる狼からの刺激に耐えていた。

胸に回った手は休むことなくハルカの喘ぎを増長させる。

乱暴な胸への刺激とは裏腹に、耳に触れていた手は優しく毛並みを撫でていた。

「ハルカ、気持ちいいだろう?」

愉悦に浸るシュウの声が耳元で聞こえる。

「どこが……っ!」

涙声で、それでもハルカは抵抗の意を見せる。

「素直じゃないね、ぼくの子猫は。体はこんなに素直なのに。」

この耳も――そう言って狼は子猫の耳を甘噛みした。

「あんっ……。」

ハルカの体から力が抜ける。

子猫は最後の抵抗の意志すら失った。

狼は腕の中の子猫を犯すべく、吼え猛る彼自身を彼女に押し付ける。





「ふっ……やっ……ふえっ……。」

ハルカの喘ぎは弱々しい泣き声に変わっていた。

シュウがハルカの中で動く度、ハルカは小さく泣く。

「……君は啼くんじゃなくて泣くんだね、ハルカ。」

子猫の体を蹂躙する狼は静かな声で言った。

血は止まっているものの、傷だらけの背中を撫でながら、シュウは言葉を続ける。

「ぼくに抱かれるのがそんなに嫌かい?」

ハルカは泣きながら頷く。

「シュウ……やめて、お願い……。」

見えない顔を見上げて懇願する。

頬には幾筋もの涙が伝っていた。

「……気に入らないな。」

シュウの言葉がハルカに響く。

「君の体は確かに悦んでいるのに、君の心は頑なだ。この耳だって――。」

シュウが猫耳を撫でると、ペタリと耳は伏せられた。

「ぼくを受け入れているのに。」

ハルカの背中に、服をはだけたシュウの熱い胸が当たる。

「感じなよ、ハルカ。このぼくを、君の全身で。」

ハルカは動こうとしなかった。

涙に濡れた瞳は何を映しているのか、シュウからは見えない。

しばらくお互い無言の時間が続き――先に折れたのはシュウだった。

ハルカから彼女の蜜にまみれた自身を抜き、ハルカの上からも退く。

「シュウ……?」

ハルカは起き上がってシュウの顔を見る。

シュウは困ったような笑みを浮かべていた。

「君を喰らってやろうと思っていたけど……君はぼくの可愛い子猫だからね。」

そんな君の頼みだから、犯すのはやめた。

シュウは座って、同じく座り込んでいるハルカの猫耳を優しく撫でる。

「君の体はとても美味しくて――いくらでも食べたいところなんだけど、ぼくが食べたいのは体だけじゃなくて君の心、君の全て。」

シュウは猫耳を撫でていた手を下ろした。

「逃げなよ、ハルカ。体だけでも手に入れてやろうかと思ってたけど見逃してあげるから。」

そのまま両手を後ろにつき、シュウはハルカを眺めやる。

狼の尻尾はパタリ、パタリとゆっくり揺れていた。





子猫は震えながら、自分を解放した狼を見る。

狼は穏やかな顔で子猫を見返した。

狼が使った見逃すという表現は間違っていないと子猫は思う。

彼自身はいまだ高くそそり立ち、自分を犯したがっているから。

――逃げないの?

狼が穏やかな声で言う。

子猫は自分に問いかける。

ここで逃げるのと、狼に喰われるのはどっちが後悔しないだろう。

子猫は一瞬ためらい、それでも狼に抱きついた。

彼女は狼の可愛い子猫だったから。

狼になら喰われてもいいほど、狼が好きだったから。





「ハルカ?」

シュウは抱きついてきたハルカに驚いていた。

さっきまであんなに嫌がって泣いていたのに、今は自分に抱きついてくる。

「シュウにならわたしを全部あげてもいいよ……。」

ハルカが微かに震えながら言う。

「でも、さっきみたいなのは嫌……。シュウの顔が見えないのは怖いの……。」

その言葉通り、ハルカの尻尾はゆらりゆらりと不安げに揺れている。

シュウは微かに笑うと、ハルカを抱き返した。





「はっ……ふっ……ああっ!」

ハルカはシュウの膝の上で喘いでいた。

シュウはハルカの腰に手を添え、ハルカを幾度となく突き上げている。

「ハルカ、そろそろイこうか?」

ハルカはその声にも反応せず、ひたすら与えられる快楽を追い続けている。

シュウの獰猛な笑みは、いつの間にか彼の顔に戻ってきていた。

狼が子猫の全てを喰らい尽くすのは、もうすぐ。





子猫は狼の胸に頭を預け、草むらに寝転んでいた。

全てを狼に喰われた子猫は、それでも狼から与えられた彼の白く熱い欲望を自分の中に感じ、満足げに喉を鳴らす。

子猫は狼の顔を見上げ――気付いた。

「ねえ、シュウ。」

子猫は狼に呼びかける。

「何だい、ハルカ?」

狼は子猫の耳を撫でる手をとめ、子猫に答えた。

「シュウの耳に触ってみたいの。」

「どうぞ。」

子猫は起き上がり、狼の頭を膝に乗せた。

子猫は狼の耳を恐る恐る撫でる。

柔らかい毛が子猫の手を優しく包んだ。

「どうだい、ぼくの耳の触り心地は。」

「うん……気持ちいいかも。」





子猫は愛する狼の耳をずっと撫で続けた。

 

 

 

 

 

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