タンゴよりも情熱的に  〜白い黒猫〜 2

 

 

 

 





シュウはソファーに寝転がって、上に乗せたハルカの猫耳を撫でていた。

さっきまで息を切らしていたハルカも、今は大分落ち着いてきている。

ハルカは頬を寄せていたシュウの胸をペロリと舐めた。

ハルカの仕草にシュウは気を良くする。

「もう一回するかい?」

「……。」

シュウの言葉に、今まで立っていた猫耳がペタリと伏せられる。

「嫌なの?」

「嫌じゃないけど……。」

ハルカがごそごそとシュウの上で寝返りを打つ。

「……動きにくくて気持ち悪いの。」

ハルカが反対側の頬をシュウの胸に乗せる。

確かに、ハルカの頬もシュウの胸にペッタリとくっ付いてしまっていた。

「あれだけ生クリームを塗って舐め回したらね。」

箱一杯の生クリームをお互いの体に塗りたくったのだ。

ベタつくのも当然だろう。

「じゃあ、お風呂に入ろうか?」

「お風呂!?」

ハルカの猫耳と尻尾がピンと立つ。

ははあ、これは……。

「お風呂が怖いの?」

「こ、怖くなんかないかも!」

「じゃあ、どうしてぼくの上から逃げるんだい?」

ハルカは風呂と聞いた瞬間、跳び上がって部屋の隅に逃げていた。

呪文をかけた時と同じ状況に、シュウは苦笑する。

「ほら、戻っておいで、ハルカ。体を洗わないと、いつまで経ってもベタベタしたままだよ。」

「うー……。」

違うのは、ハルカの涙目と伏せられた猫耳。

本気で風呂が怖いらしい。

シュウはソファーから起き上がって、ハルカの元へ歩いていった。

「ハルカ、そんなに怯えないで。湯船に放り投げたりしないから。ね?」

しゃがんでハルカの頭を撫でる。

四足をついて逃げようとしていたハルカは、その手に少しだけ緊張を解いたようだった。

「さあ、ハルカ。お風呂に入ろうか。」

シュウは子猫にするように、ハルカを抱き上げる。

ハルカも暴れず、大人しくシュウに抱えられていた。





会議室を出て、真夜中の監督生棟を歩く。

監督生棟の廊下には毛の長い絨毯が敷かれているので、シュウの足音は聞こえない。

また、いつもは明かりが煌々と付いているが、今は真っ暗だった。

それでも、狼のシュウは夜目がきくので、何かにぶつかったりはしなかった。

猫のハルカもそれは同じで、シュウの腕の中から辺りを珍しそうに見回している。

「何だか違う建物みたい……。」

「見え方も人間より動物に近いからね。ぼくの視界もいつもと違うよ。」

「例えば?」

ハルカがシュウの顔を見上げて問いかける。

「君がいつもよりもずっと美味しそうに見える。」

シュウのただ笑っているだけではない笑顔に、ハルカは嫌な予感を覚える。

シュウが立ち止まるのと同時に、ハルカはシュウの腕を抜け出し、廊下を駆けようとした。

が、シュウに尻尾を掴まれ、それは敢え無く失敗に終わる。

「ハルカ、悪いけど我慢できないんだ。もう一回食べさせてもらうよ。」

廊下に組み敷かれた子猫の喘ぎは、絨毯に吸い込まれていった。





シュウが浴室の扉を開けたのは、それから随分経ってのことだった。

「何が一回よ、嘘つき……。」

ハルカはシュウの腕の中でグッタリしている。

「君が美味しすぎるのがいけないんだよ。」

ハルカの抗議を軽くあしらい、浴室に足を踏み入れると、温かな湯気が二人を包んだ。

監督生専用浴室はひたすらに豪華だ。

浴槽はいくつもあるし、その全てに違う種類の湯が入っている。

大きな姿見だってあるし、何に使うのかよく分からない小部屋まである。

シャワーに至っては、監督生を全員合わせたよりも多く備え付けられている。

シャワーの下にハルカを座らせ、シュウは隣に腰を下ろした。

「ハルカ、自分で洗える?」

「顔くらいは何とか……。」

ハルカはシャワーを見上げ、すぐに目を逸らした。

怯えたように伏せられた猫耳を見て、シュウはハルカの頭を撫でる。

「じゃあ、頑張って洗うんだよ。」

「うん……。」

シュウは自分のシャワーから熱いお湯を浴びた。





狼の耳に湯が入らないように気をつけながら髪をすすぐ。

湯をとめ、頭を左右に振って水滴を飛ばしていると、隣から笑い声が聞こえた。

「何がそんなにおかしいんだい、ハルカ?」

シュウがそちらを向くと、ハルカはおかしそうに笑っていた。

「だって、シュウ、犬みたいなんだもん。体震わせて水飛ばすなんて。」

「犬ってね……、ぼくだって好きでやってるわけじゃないよ。」

狼の習性なのだ。

それでも笑われてしまったので、人間のように片手で前髪をかき上げる。

「シュウ、顔赤いよ。」

「お湯が熱いからだよ。」

照れ隠しにタオルに石鹸をこすり付けて体を洗う。

全身を洗っていると、ハルカがこちらをじっと見つめているのに気付いた。

「ハルカ、顔はちゃんと洗ったのかい?」

「洗ったわよ。」

「じゃあ、体は?」

「うっ……。」

ハルカの猫耳は正直でいい。

体のことを訊いた途端、ピクリと耳が動いた。

「洗ってないんだね?」

シュウの笑顔に、次の言葉を予想したハルカが椅子ごと後ろに下がる。

「だったら、ぼくが洗ってあげよう。」

予想通りのシュウの言葉と、これまた予想通りの腕の強さに、ハルカは唸る気力も無かった。





シュウがシャワーからぬるめの湯を出して、ハルカの体にかける。

「やっ!」

ハルカはそれにも怯えて逃げようとした。

「ほら、そんなに怖がらないで。大丈夫だから。」

シュウが椅子に座ったハルカの肩を押さえる。

シュウは後ろからハルカの前にあるシャワーを操作していた。

シャワーをとめ、シュウは石鹸を泡立てる。

泡で白くなった手をハルカの胸に回した。

「ああっ!」

ハルカの胸を揉むように洗う。

「特に、生クリームを沢山付けたのはここだからね。ちゃんと洗っておかないと。」

胸の頂を摘み、浴室に嬌声を響かせる。

シュウは確信犯の笑みを浮かべた。





ハルカは先程よりもさらにぐったりしていた。

猫耳を動かす元気もないのか、さっきからずっと伏せたままである。

ハルカはずっとシュウに体を洗われ続けていた。

腕を這う手に声を上げさせられ、背中に当たる熱い胸を感じ。

太ももをくすぐられた時は逃げようかと思った。

もちろん、彼がそれを許すわけもなかったのだけれど。

今、彼は機嫌良く猫の尻尾を洗っている。

泡で黒い尻尾は白く見えた。

「シュウ、楽しそうね……。」

「もちろん。君は楽しくないのかい?」

「……。」

沈黙で抗議しても、シュウは全く気に掛けない。

尻尾を洗い終わると、シュウはまた手に石鹸を付けた。

「ちゃんとここも洗っておかないとね。」

その言葉が終わるよりも早く、シュウはハルカの蕾に手を回した。

「やあっ!」

石鹸の滑りを利用し、シュウの指が何本も入ってくる。

逃げようとするハルカを胸に回した手で押さえ、シュウは蕾の中で指をかき回した。

「つうっ!」

石鹸がしみるのか、ハルカが涙を浮かべる。

それもお構いなしにシュウは蕾を弄り続けた。





しばらく耳元で喘ぎを聞いて気が済んだのか、シュウは指を一本残して引き抜き、シャワーを手に取った。

「ちゃんとすすいでおかないと、今度は石鹸でベタつくからね。」

シャワーの水圧を強にして、ハルカの蕾に当てる。

「やんっ!」

ハルカが刺激に身をよじる。

シュウは指で蕾を広げ、シャワーの湯を注ぎ込んだ。

「気持ちいいだろう、ハルカ?」

「どこが……っ!」

ハルカの抗議に、シュウはニヤリと笑い、また指を増やす。

蕾をめいいっぱい広げ、蜜がお湯と一緒に流れ出るままにした。





ハルカが達するまで蕾を刺激し続けたシュウは、今度はシャンプーを手に取った。

頭から湯をかぶるのは怖いが、今はもう抵抗する元気もない。

ハルカはぼんやりとシュウの胸に頭をもたせかけていた。

シュウがシャンプーを泡立たせ、シャワーで濡らしておいたハルカの髪を洗う。

……ちょっと気持ちいいかも。

程よい刺激と指の動きに、ハルカは喉を鳴らした。

シュウは猫耳に泡が入らないよう気をつけて、髪を洗っていく。

髪をすすがれ、ハルカは頭を左右に振って水滴を飛ばした。

「君だって猫みたいじゃないか。」

「猫だもの。」

シュウの苦笑も気に留めない。

次にシュウはトリートメントを手に取った。

「シャンプーの次はリンスじゃないの?」

ハルカがシュウの顔を見上げて尋ねる。

「トリートメントが髪の内側の質感を整えるのに対して、リンスは髪の表面をカバーするものだからね。」

だから、先にトリートメントをした方がいいんだよ。

シュウの言葉にハルカは尻尾を揺らす。

「シュウって無駄なことばっかり知ってるかも……。」

「役に立つんだから無駄じゃないだろう。」

トリートメントを付けたシュウの手が優しく髪を撫でていく。

ハルカは喉を鳴らし続けた。





再び髪をすすがれ、頭を左右に振って。

シュウはそんなハルカを優しく抱え上げた。

「シュウ?」

「やっと綺麗になったね。さあ、お風呂に浸かろうか。」

ハルカの尻尾がピンと立つ。

「や、やだっ!」

ハルカはシュウの腕の中でもがいた。

「ダメだよ、ハルカ。ちゃんと温まらないと。」

その反応を見越していたシュウが手に力を込める。

それでもハルカは暴れに暴れて、シュウの腕から跳び下りた。

浴室の隅に逃げ込んで、小さく唸る。

「そこまで暴れる元気があったとはね……。」

シュウは呆れてハルカを見やる。

浴室は広いが、猫のハルカが逃げるのは隅ばかりだから、捕まえるのはたやすい。

しかし、捕まえたところで、また逃げられるのは目に見えている。

さて、どうしたものか……。

顎に手を当てて考えていたシュウの目にある物がとまった。

思わず笑みが浮かぶ。

それを見たハルカは、ビクリと怯えたように尻尾を揺らした。

「さ、ハルカ。観念してお風呂に入るんだ。」

「絶対いや!」

シュウの手を上手く避けて、ハルカは逃げ回る。

シュウはゆっくりと追いかけ、自分の意図した方向にハルカを誘導していった。

「ハルカ、もう逃げられないよ。」

シュウがハルカを追い込んだのは、大きな姿見の前。

鏡面に張り付いて、ハルカは身を震わせていた。

「大人しくお風呂に入りたまえ。」

「……。」

ハルカは床にうずくまり、無言の抵抗をする。

シュウが抱え上げようとしても、嫌がってなかなか上手くいかなかった。

「……ハルカ。」

シュウの声にハルカが恐る恐る顔を上げる。

怒っているのかと思いきや、シュウは笑っていた。

「君が抵抗するなら、ぼくは君を抵抗できなくなるまでいじめるだけだよ。」

その笑みは先程の嫌な予感を覚えた笑顔と全く同じ。

ハルカは急いで逃げようとしたが、シュウが体の上に覆いかぶさってきたせいでそれはできなかった。

「ねえ、ハルカ。前を見てごらん。」

ハルカの抵抗をのしかかることで封じ、シュウは優しく呼びかける。

ハルカはシュウの言葉に従うまいとしてそっぽを向いていたが、シュウはその顔を無理やり前に向けさせた。

ハルカの目に映ったのは、尻尾を振る狼にのしかかられて小さくなっている子猫の姿。

「君、ぼくに抱かれている時、自分がどんな顔をしているか知ってるかい?」

シュウはハルカの反応を予想して愉悦にひたる。

予想通り、これから自分がどんな目に遭うか悟ったハルカは、何とかシュウの下から這い出ようとした。

が、シュウは両手をハルカの腰に回し、ハルカをその場に留めおく。

「見せてあげよう、ハルカ。君はとてもイイ顔をしているよ。」

シュウはそそり立つ彼自身でハルカの蕾を貫いた。





「やっ……はっ……っん!」

シュウがハルカの中に突き進む度、ハルカの腰は妖しく揺れる。

「ダメだよ、ハルカ。ちゃんと前を見て。」

逸らしていた顔をシュウが無理やり前に向ける。

見たくない。

そこにいるのは狼に犯されているのを悦んでいる子猫だから。

ハルカは最後の抵抗で目をギュッと閉じる。

「強情だね、ハルカ。」

鏡を見て、シュウが笑う。

シュウはギリギリまで蕾から自身を引き抜いた。

そうして一気に根元まで挿れる。

「ああっ!」

衝撃に耐え切れず、ハルカが目を開けた。

「そうだ、ハルカ。よく見るんだ。」

再び目を閉じさせないように、シュウが激しく律動を刻む。

ハルカはシュウの動きに翻弄されていた。

目の前の子猫も喘いでいる。

狼に体を蹂躙されて、それでも快楽に酔って――こちらを見つめ返している。

「い、いや……っ。」

「嫌じゃないだろう。ほら、君はあんなに気持ち良さそうだ。」

鏡の中の狼が、子猫を犯し続ける。

子猫は淫らに腰を振り、狼を悦ばせていた。

「ハルカ、君はもうイキそうだろう。ちゃんとその顔を見るんだ。」

狼がひときわ強く子猫に腰を打ち付ける。

「ああ……っ!」

頭の中で何かが弾け、ハルカは視界が白く染まっていくのを感じた。

最後に目に映ったのは、狼の欲望にまみれ、気を失いかけながらも、どこか幸せそうな子猫の顔だった。





湯の感触が肌をくすぐる。

ハルカがゆっくりと目を開けると、シュウの顔が目の前にあって、シュウの腕の中で湯船につかっていた。

「――っ!?」

混乱してハルカは暴れる。

「暴れたら沈んじゃうよ、ハルカ。」

シュウの声に、ハルカはピタリと暴れるのをやめた。

シュウの顔を見ると、楽しそうに笑っている。

「ちゃんと自分がイクところを見たかい?」

シュウの質問に、ハルカの顔は真っ赤になる。

同時に猫耳も忙しく動いていた。

そんなハルカの反応に、シュウは満足そうに笑う。

「可愛いね、ハルカ。」

シュウの言葉に、ハルカはキッとシュウを睨み付ける。

「シュウの意地悪……っ!」

「ぼくにそんなこと言っていいの?」

シュウはハルカを抱きかかえていた手を放す。

体が湯に落ちていく感触を覚え、慌ててハルカはシュウにしがみついた。

「そうそう、君はそうやってぼくに抱きついていればいいんだよ。」

シュウは向かい合ったハルカに再び硬くなった彼自身を押し付ける。

「逃げたいんだったらそうしてごらん。ぼくに犯されるのと、お湯に沈むの、君はどっちがいい?」

子猫が抵抗できないのを知っていて、狼は子猫を挑発する。

子猫は震えたままで逃げ出さない。

薄く笑った狼は、捕らえた獲物を喰らうべく、再び子猫を貫いた。





浴室に子猫の喘ぎがこだまする。

狼は子猫が自分に縋り付いてくるのが楽しくて、子猫を犯すことをやめられない。

子猫は湯が怖い。

それでも、自分が狼に縋り付いているのは湯が怖いだけではないのだと分かっている。

子猫がそう思っているのを知っているから、狼は子猫が可愛くて仕方が無い。

喰らうことで愛情を注ぐ狼、喰われることで愛情を示す子猫。

浴室にはずっと二人の立てる水音が響いていた。

 

 

 

 

 

戻る

inserted by FC2 system