タンゴよりも情熱的に 〜白い黒猫〜

 

 

 

 

 





ドタバタと大きな足音が近づいてくる。

「遅れてごめん!」

その声と共に、部屋にグリフィンドール監督生のハルカが飛び込んできた。





ここは監督生棟。

ホグワーツ魔法学校の校舎である城の離れにそれは存在する。

ホグワーツの監督生達に与えられた仕事場であるここで、生徒達の生活の充実を図ったり、監督生達は忙しく働くのだ。

ちなみに、頑張る監督生達のために、ここには豪華な浴室なども用意されている。

ハルカが駆け込んだのは会議室。

今から夜のミーティングがあるのだ。





「しーっ。」

騒々しく登場したハルカを制する声がした。

見ると、スリザリン監督生のワカナが人差し指を口に当てている。

「ダメですよ、ハルカさん。シュウ様が寝てらっしゃるんですから。」

ワカナから視線をずらすと、大きなソファーにシュウが寝そべってすやすや眠っていた。

会議室とは名ばかりで、実際は豪華な談話室といった趣のこの部屋。

ソファーも柔らかく、眠ってしまうのは仕方の無いことだろう。

そう思い、ハルカは音を立てないよう空いているソファーに座る。

その時、シュウの枕元に白くて大きな箱が置いてあるのに気づいた。

「何、それ?」

指差してワカナに尋ねてみる。

「多分、シュウ様の物でないかと思います。私が来た時は、もうシュウ様は寝ていらして、この箱が置いてありましたから。」

「ふーん。」

ハルカは箱から議長に目を移す。

会議の議長は、ハルカと同じグリフィンドール監督生のトオイである。

普段は穏やかで優しい性格で滞りなく議事を進める司会者。

しかし、揉め事が起こったときは、議長として裁定を下すなど、決断力のある人物である。

「シュウ君は疲れてるみたいだから、このままにしておいてあげようか。今日は大した案件も無いし。」

トオイの提案に異議が出ることはなく、ミーティングは始まった。





「――以上でミーティングは終わりです。」

トオイの終了を告げる声と同時に、場に張り詰めていた緊張が解ける。

今日はシュウが寝ていたこともあって、いつもに比べると、緊張感はそれほどなかったのだが。

「じゃあ、オレ達、先に帰るから。」

「みんな、おやすみ。」

ハッフルパフ監督生のサトシとカスミが静かに部屋を出て行く。

それに続いて、トオイや他の監督生も退室し、部屋に残っているのは3人だけになった。

シュウとハルカと――ワカナ。

いったん部屋を出たワカナは、違う部屋に行って毛布を取ってきたらしい。

それをシュウに掛けていた。

「起こしてあげないの?」

ハルカはワカナに尋ねる。

ワカナはシュウの大ファンなので、起こさずこんな所に置いていこうとしているのが不思議になったのだ。

「シュウ様、お疲れのようですし……。それに起こしてしまったら、もう寝顔が見られなくなっちゃうじゃないですか。」

ワカナはシュウの枕元に膝をついて、幸せそうにシュウの寝顔を眺める。

ハルカはそんなワカナの後姿をただ見ていた。





しばらくの間、シュウを眺めていたワカナが立ち上がり、扉に向かう。

「もう少しシュウ様の寝顔を見ていたかったんですけど、友達との約束があるのでもう戻りますね。」

扉を開けてクルリと振り返る。

「シュウ様、ハルカさん、おやすみなさい。」

ワカナは小さく歌いながら機嫌良く去っていった。

ハルカはワカナが出て行った扉をじっと見つめていたが、視線を逸らしソファーから立ち上がった。

そのまま、シュウの元へ向かう。

ワカナがしていたように、シュウの枕元に膝をついた。

「……何でこんなに無防備なのよ。」

シュウの寝顔なんて、わたしでも滅多に見られるものじゃないのに。

ハルカは面白くなさそうに呟く。

ハルカは、ワカナが決して触れようとしなかったシュウの髪に触れた。

そのまま、サラサラとした髪を梳く。

シュウは一緒に眠っても、絶対わたしより早起きで。

それで、わたしが起きるまで、ずっとわたしの寝顔を眺めているのに。

シュウが眠っている時はわたしも眠っているから、シュウの寝顔を眺められなくて。

それなのに、ワカナはあんなにも簡単にシュウの寝顔を見た。

……何か悔しいかも。

髪を梳いていた手を彼の頬に当てる。

シュウの端整な顔立ちは眠っていても分かるほどで。

形の良い眉、今は見えないけど優しい緑の瞳、筋の通った鼻に――。

ハルカの視線は、シュウの唇の上で止まった。

いつも嫌味や厳しいことばかり言うけど、本当は誰よりもわたしのことを考えてくれていて。

時々優しい言葉をくれるから、とても嬉しくなる。

ハルカはシュウの唇に触れた。

そのまま指でなぞる。

……ちょっとだけなら起きないよね。

ハルカはゆっくりとシュウの唇に自分の唇を重ねた。

こんな穏やかなキスをするのは久しぶりのような気がする。

いつもキスをするときは、お互い憑かれたような熱や欲求を持っているから。

ハルカはちょっとだけという自分との約束を少しだけ破り、離した唇をもう一度シュウに落とした。

柔らかい彼の唇を小さく舐め、名残惜しげに顔を上げる。

「……わたしもここで寝たいかも。」

ハルカはシュウの毛布をめくり、自分も潜り込もうとした。

が、それで風が入ってきたせいか、シュウはゆっくりと目を開けた。

「ハルカ……?」

「あっ、ごめん、シュウ。起こしちゃった?」

「いや……、そうか、いつの間にか眠って……。」

シュウはゆっくりと身を起こす。

ハルカは、シュウが起きて自分の名前を呼んでくれた嬉しさと、シュウと一緒に眠れなくなった寂しさで、内心複雑だった。

そんなハルカをよそに、シュウは辺りを見回す。

「あれ……ミーティングは……?」

「もう終わったわよ。」

ハルカの言葉に、シュウはため息をついた。

「それは困ったな……。ぼく一人じゃどうにもできないから持ってきたのに……。」

シュウは枕元にあった白い箱を持ち上げた。

そのままそれをテーブルに置き、思案顔になる。

「ねえ、それ、何が入ってるの?」

ハルカが箱を指差して尋ねる。

「開けてごらん。」

シュウの言葉に、ハルカは箱に手を伸ばす。

「冷たい……?」

箱はひんやりと冷たく重かった。

それでも開けてみると――。

「ケーキ?」

大きく真っ白なケーキが1ホール入っていた。





ハルカの視線を感じて、シュウは経緯を説明する。

「ちょっと実験していて、どういうわけかそれが出来たんだ。」

「どういう実験でケーキが出来るのよ。」

ハルカのツッコミはもっともである。

「そして、それは見かけはケーキだけど、実はケーキじゃないんだ。」

「じゃあ何なの?」

「……生クリーム。」

「は?これ全部?」

「そう、それ全部。」

ハルカはもう一度ケーキに見える生クリームの塊を眺める。

確かに、ケーキにしては上に苺など乗っておらず、雪のように真っ白だが……。

「これだけの生クリーム、本当に泡立てようとしたら大変かも。」

「実験結果とお菓子作りを一緒にしないでくれ……。」

ハルカの笑いを含んだ言葉にシュウはうなだれる。

どこをどう間違ったら魔法薬開発がパティシエの真似事になるんだ……。

悩むシュウを尻目に、ハルカは疑問を抱く。

「でも、シュウ。実験自体は失敗だったんでしょう?生クリームが出来ちゃったんだから。どうしてすぐ魔法で消さなかったの?」

「それは食べてみれば分かるよ。」

シュウは生クリームを指で掬い、ハルカの口元に持っていく。

ハルカはシュウの手をとらえ、ゆっくりと指を舐めた。

「美味しい……。」

その生クリームは、町のケーキ屋などとは比べ物にならないほど美味しかった。

甘いのにクドさが無く、濃厚なのにさっぱりしている。

「消すのが勿体無くなって、だったら皆で食べようと思って持ってきたんだ。」

寝ちゃって見せそびれたけどね。

シュウの苦笑に、

「だったら、わたし達だけで食べる?」

ハルカが提案する。

「このまま置いておいたら悪くなっちゃうし。わたし、生クリーム好きよ。」

「いくら生クリームが好きでも、これだけの量を二人で食べ切るのは無理だよ。どれだけ美味しくても飽きるだろうし――。」

シュウは何かを言いかけ、とめた。

そのまま顎に手を当てて考え込んでいる。

「シュウ?」

ハルカがシュウの顔を覗き込む。

「これなら二人でも……。」

シュウが懐から杖を取り出す。

そのまま頭上に掲げ、呪文を唱えた。

「っ!?その呪文は――!」

ハルカの言葉が終わるよりも早く、杖から生み出された光が二人に注いだ。





「……そんなに警戒しないで、こっちにおいで、ハルカ。」

「うー……。」

シュウの苦笑いに、ハルカは唸り声で返す。

シュウの視線の先には、部屋の隅でこちらを鋭く睨み付けているハルカ。

耳と尻尾の毛を逆立てて、シュウを威嚇していた。

シュウが使ったのは、アニメーガスもどきを作り出す呪文。

その呪文を掛けられた人間には、その人間の特性に合った動物の耳や尻尾が生える。

もちろん、それだけでなく、動物の能力も使えるようになる。

ハルカは猫の能力を最大限に生かし、一跳びで部屋の隅まで逃げ、シュウから距離を取った。

そんなハルカを見て、シュウは狼の尻尾を困ったように揺らす。

「今日は襲ったりしないから。」

「……信用できないわよ。」

ソファーに座ったままでハルカを手招きするも、全く耳を貸そうとしない。

シュウは苦笑いをそのままに、生クリームに手を伸ばした。

先程のように指で掬い、自分で舐める。

「やっぱり……。」

シュウは頷くと、もう一度ハルカを手招きした。

「おいで、ハルカ。美味しいよ。」

シュウは手に生クリームをつけて、ハルカを呼んだ。

ハルカは無視しようとしたものの、生クリームの甘い匂いに心惹かれた。

砂糖の甘さとは違う、生クリーム本来の柔らかな匂いだった。

意図しなくても、猫耳がそちらを向き、尻尾が揺れる。

「ほら、ハルカ。我慢しないで。」

シュウが手を差し伸べてくる――生クリームと一緒に。

ハルカは恐る恐るソファーまで戻っていった。

シュウの手を小さな舌でペロリと舐める。

「美味しい……。」

さっきよりもずっと。

「生クリームは乳製品だから、きっと猫や狼だったらいくらでも食べられると思ったんだ。正解だったね。」

シュウがもう一方の手でハルカの猫耳を優しく撫でる。

ハルカは夢中でシュウの手を舐めていた。

すぐに舐め終わり、ハルカは上目遣いにシュウを見る。

「はいはい、分かってるよ。ぼくの可愛い子猫ちゃん。」

シュウは一掬い生クリームを手に乗せハルカの口元にやる。

ハルカは嬉しそうにシュウの手を舐めた。





何度かそれを繰り返した後、シュウは思いついたようにハルカをソファーに抱き上げた。

「シュウ?」

もっと頂戴とねだるような顔をして、ハルカはシュウを見上げる。

「君ばかりずるいよ。ぼくも舐めたい。」

シュウは何かを企むような顔をしていた。

狼の耳は楽しげに動き、尻尾はパタパタ振られている。

シュウはハルカをソファーに寝かせると、服を脱がせ始めた。

「シュウ!?」

ハルカがシュウの手を押さえる。

が、狼の腕力には敵わず、シュウの手は止まることなく服を床に落としていった。

「襲ったりしないって言ってたじゃない!」

「別に襲ってるわけじゃないよ。」

シュウは最後の一枚を床に落とした。

「ハルカ、知ってるかい?」

機嫌良く、シュウは生クリームを大きく掬う。

「食べ物はね、美しい器に盛られていると、それだけで美味しさが増すんだよ。」

シュウは掬い取った生クリームをハルカの胸に塗りたくった。

「ひゃっ!」

生クリームの冷たさに、ハルカが思わず声を上げる。

シュウはハルカの胸に塗った生クリームを舐めた。

「うん、やっぱり美味しい。」

そのままハルカの胸を舐め続ける。

「やっ、やんっ!」

ハルカがシュウの頭を押し返そうとするも、シュウは頑として動かない。

そのまま生クリームを舌で掬い取っていく。

悪戯狼の尻尾は絶えず楽しそうに動いていた。





シュウの手が再び生クリームを掬い取る。

それを指ごとハルカの蕾に挿れた。

「ああっ!」

ハルカが声を上げて仰け反る。

そのまま指を動かして、蕾の内壁に生クリームを丁寧に塗っていく。

指が熱い壁を擦る度、濡れた音と喘ぎが狼の耳をくすぐる。

シュウが指を引き抜くと、生クリームと一緒に蜜が溢れた。

シュウは蕾に口付ける。

そのまま、舌を蕾に挿れ、中に塗った生クリームを味わう。

「やっ……あっ……はあっ!」

舌を動かす度、指を挿れた時よりもずっと艶かしい声と音が上がった。

シュウはニヤリと笑い、蕾を吸い上げる。

生クリームは蜜と混ざり、シュウの口を甘く満たした。





シュウがハルカの顔を見ると、息を切らしながら涙目でこちらを見上げていた。

猫耳がペタリと伏せられている。

あまりご機嫌がよろしくないようだ。

「どうしたの、ハルカ?」

シュウが優しく訊く。

「……シュウばっかりずるいよ。」

わたしも舐めたいのに。

ハルカの言葉にシュウは笑う。

「生クリームを?それともぼくを?」

シュウの愉悦を含んだ声に、ハルカは悔しそうに小さく唸る。

シュウはそんなハルカの頭を撫で、彼の可愛い子猫のために服を脱いだ。





「さ、どうぞ、ハルカ。」

シュウが彼の胸に塗った生クリームをハルカは舐め取っていく。

「美味しいかい?」

ハルカは返事をせず、一心不乱にシュウの胸を舐めていた。

シュウは手に付いた生クリームを舐めながら、ハルカの猫耳を見やる。

機嫌が直ったのだろう、ピョコンと元気に立っていた。

ハルカの赤い舌がチロチロと胸を彩る。

それを眺めている内に、ハルカは生クリームを舐め終わってしまう。

上気した頬と潤んだ瞳、ねだるような視線を受け、シュウはまた自分に生クリームを塗った。





子猫は狼の脚の付け根に潜り込んで、彼自身に塗られた生クリームを舐める。

舐め終わって狼の顔を見上げると、狼は優しく耳を撫でてくれるから、子猫はここを舐めるのが好きだった。

しかし、何度も繰り返して生クリームを塗ってもらっている内に、あれだけ沢山あった生クリームは無くなってしまった。

子猫は名残惜しげに、もう生クリームの付いていない彼自身を舐める。

「ハルカ。」

狼が子猫の名前を優しく呼ぶ。

子猫は耳をピッと立てて、優しい狼の顔を見上げた。

狼が顔を近づけ、子猫の口の周りに付いていた生クリームを舐める。

子猫も狼の唇に付いた生クリームに舌を伸ばした。

狼はその舌まで舐め取ってしまう。

子猫は狼の舌に自分の舌を絡ませ、生クリームを味わった。





「ねえ、ハルカ。」

シュウはソファーにもたれて、膝の上に向かい合って座るハルカに呼びかける。

「このまま君を抱いていいかい?」

「……襲ったりしないって言ってたじゃない。」

ハルカは抱いてもらいたがっている自分が悔しくて、少しだけ抵抗を試みる。

「襲わないよ。襲うっていうのは無理やり抱くってことさ。」

シュウは髪をかきあげる。

ハルカは自分の考えが読まれているような気がして、猫耳を忙しなく動かした。

シュウはそんなハルカの心の動きを見て笑う。

「それに、君はあんなに可愛く誘ってくれたじゃないか。」

「……何のこと?」

「ぼくが寝ていた時、キスしてくれただろう?」

「なっ!起きてたの!?」

余程驚いたのだろう、猫耳と一緒に尻尾がピンと立つ。

「一度目の時に目が覚めたんだよ。状況が分からずに寝たふりをしていたら、君はもう一度キスしてくれたね。」

しかも、ぼくの唇を舐めていた。猫みたいに。

シュウの言葉にハルカは真っ赤になる。

シュウはハルカを抱きしめた。

「いいだろう、ハルカ。生クリームは無くなってしまったけど、君の蜜は尽きることが無いんだから。」

シュウはそそり立つ彼自身でハルカの蕾をなぞる。

「それに、ぼくのミルクを君にあげよう。きっと生クリームより美味しいよ。」

ハルカは真っ赤になった顔を隠すように、シュウの肩に顔をうずめていた。

それでも、シュウを感じたくて、微かに頷く。

シュウは笑い、ハルカの中に入っていった。





子猫と狼は休むことなく交し合う。

蜜とミルクは混じり合い、ソファーに零れ落ちた。

部屋には甘い匂いが立ち込めている。

もっと甘いのは、互いを舐め合う二人。

子猫と狼は甘くとろけ合い、一つになった。

 

 

 

 

 

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