それは深奥にして心奥、避けて通ることは叶わぬもの 18

 











シュウはふと目を覚ました。

カーテンの向こうを眺めてみても薄暗い。

まだ夜が明けきっていないようだ。

シュウは腕の中の温もりが動いたことに気付く。

目を向けると、愛しい人の寝顔がそこにあった。

すやすやと気持ち良さそうに眠っている。

「ハルカ……。」

シュウはぎゅっとハルカを抱きしめる。

愛しくて愛しくてたまらない。

昨日の夜、彼女はぼくを受け入れてくれた。

ぼくも彼女を受け入れて、全てを重ねあって一つにして。

とても幸せだった。

その幸せは今も続いている。

シュウはシーツを引っ張ってハルカの肩に掛けた。

むき出しになった肩が寒そうに見えたからだった。

しかし、それで空気が動いたせいか、ハルカが小さく唸って目を開ける。

「シュウ……?」

「おはよう、ハルカ。まだこんばんはの時間だけど。」

ぼんやりとシュウの顔を見ていたハルカは、次の瞬間、顔を真っ赤にして起き上がる。

「え、えと!あの!シュウ!」

「可愛いね、ハルカ。」

慌てていても胸元をシーツで隠すことは忘れないハルカにシュウは笑いかける。

「ほら、起きたら寒いだろう、こっちにおいで。」

「……うん。」

また体を預けてきたハルカを抱きしめる。

「ねえ、ハルカ。」

「何?」

「幸せ?」

「……うん。」

「ぼくもだ。」

シュウは抱きしめたハルカの髪を撫でる。

ハルカもシュウの胸に擦り寄った。

こんな風にまた寄り添うことができるなんて夢みたいだ。

「ねえ、シュウ。」

今度はハルカが呼びかけた。

「何だい、ハルカ?」

「温泉に入りたいの。」

「……部屋のシャワーで済ませた方がいいと思うけど。」

「どうして?」

シュウは少し体を離した。

「見えるから。」

そう言って、ハルカの胸の辺りを指差す。

そこには昨夜の名残が散っていた。

「っ!」

ハルカはまた胸元を隠す。

「ぼくは別に構わないけど、誰か他の人が入ってきたらまずいんじゃないのかい?」

「でも、やっぱり入りたいかも……。」

「まあ、こんな時間だしね。誰かいる確率は低いかな。」

シュウは起き上がった。

「ハルカ、温泉に入ろうか。」

「うん!」




「やっぱり温泉っていいかも!」

肩まで湯に浸かったハルカがはしゃぐ。

「まあ、部屋でシャワーを浴びるより、ずっと気持ちがいいのは確かだね。」

少し離れて、岩に体を持たせかけたシュウが言う。

ハルカはそんなシュウの顔をじっと見つめた。

「ん?何だい、ハルカ?」

ハルカは無言で湯の中を移動し、シュウに近づく。

すぐ傍まで行って、シュウの顔を見つめた。

「……?」

シュウがクエスチョンマークを浮かべているのに構わず、ハルカはシュウの胸に擦り寄る。

「どうしたんだい、ハルカ?」

シュウがハルカの頭を撫でると、ハルカは嬉しそうにシュウを見上げた。

「何でもないかも!」

温泉を出るまで、ハルカはずっとシュウに体を預けていた。




夜が明けてから、ハルカは町外れの雪野原に行った。

ポケモン達を出して、初めてここに来た時のように雪合戦に興じる。

白熱した戦いが続いて、決着がついた頃にはハルカは息を切らしていた。

コロンと雪の上に仰向けになる。

雪の冷たさが心地よかった。

そのまま、透き通るように晴れ渡った空を眺める。

どれくらいそうしていただろうか。

青一色だった視界に、にゅっと影が差し込んできた。

「……別に、凍死しようとしてるわけじゃないかも。」

「分かってるわよ。」

影はハーリーだった。

「とにかく起きなさい。アンタにここで寝られてると、アタシの心臓に悪いのよ。」

「シュウが迎えに来たら起きるかも。」

「キーッ!何よ、この女!最初はシュウは来ないからとか言って埋もれかけてたくせに今度はノロケ!?むかつくーっ!」

「……随分と騒がしいな。」

ハーリーはピタリと暴れるのをやめて振り返った。

そこには話に出ていたハーリーのむかつく奴ランキングトップのシュウがいた。

ちなみに、ハルカは同着トップだ。

シュウはハーリーを無視してハルカに近づく。

「ほら、ハルカ。そんな所で寝ていると風邪を引くよ。」

「起こして、シュウ。」

「仕方ないな、ほら。」

シュウが差し伸べた手をハルカは握る。

力強く引き上げられて、ハルカは雪の上に立った。

そこで二人は微笑みあう。

「キーッ!どうしてだか分からないけど、ハーリーベリーアングリー!」

「朝から元気ね、ハーリーさん。」

またピタリと黙って振り向くと、サオリとワカナが立っていた。

「シュウ君がハルカさんの所に行くって言うから、散歩のついでに、ね。」

ワカナが頭を下げる横で、サオリは朗らかに言う。

「ハーリーさんも散歩?もしかして、やっぱり気になって見に来てた?」

「そんなわけないでしょーっ!」

ハーリーが大暴れするのを、サオリはにこにこ笑いながら見ている。

そんな中、ハルカが駆け寄ってきた。

「ワカナ、おはよう!サオリさん、おはようございます!」

「おはようございます、ハルカさん!」

「おはよう、ハルカさん。ポケモン達と雪合戦でもしてたの?」

サオリがハルカの服に付いた雪を見て言う。

「はい!それで、サオリさん達も、私達と一緒にどうかと思って!」

「わあ!是非、ハルカさんとシュウ様のチームに入れてください!」

「ぼくも入ってるのかい……?」

シュウの呟きは無視された。

「いいわね、雪合戦。私も久しぶりにやってみようかしら。」

サオリもハルカ達の輪に加わる。

「ほら、ハーリーさんも!」

「イヤよ!何でこのアタシが子どもの遊びなんてしなきゃいけないのよ!」

ハルカが誘うも、ハーリーは頑として動かない。

「……もしかしてハーリーさん、負けるのが怖いの?」

ハーリーの額に青筋が走る。

「いい度胸ね、かもちゃん!その顔に雪球ぶつけまくって雪ダルマにしてやるわ!」

幼少時代、誰かにそうされたことでもあるのだろう。

ハーリーはハルカの挑発に簡単に乗ってきた。

「じゃあ、みんな!ポケモンを出して!チームは――。」

ハルカは元気にシュウの傍に駆けて行った。

 

Fin

 

 

 

 

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