それは深奥にして心奥、避けて通ることは叶わぬもの 17.5



 









シュウは抱き合ったまま、ハルカをベッドに押し倒した。

続けて、ハルカの唇に自身の唇を重ねる。

舌を入れ、歯列をなぞり、その奥の彼女の舌を見つけ出す。

舌を絡め、息すらも吸い尽くすように。

それは二人が初めてこの雪の町にやってきた夜と全く同じキス。

しかし、二人の心はその時とは全く違う。

シュウの舌の動きに、ハルカは何とか応えようとしていた。

たどたどしい動きで、シュウの舌に自身の舌を絡める。

その動きを感じて、シュウは目だけで笑った。

さらに深く唇を合わせる。

シュウが唇を離した時、既にハルカの息は上がり切っていた。

「……何だい?」

シュウが、瞳を潤ませながら物言いたげに自分を見つめてくるハルカに問いかける。

しばらくハルカは無言だったが、シュウが濡れたハルカの唇を舐めている時、ようやく口を開いた。

「……シュウ、キスうますぎ。何でこんなに上手なのよ……?」

ハルカが言葉を紡ぐ度に、互いの唇が触れ合う。

無意識であろう、その動作にシュウは声を出さずに笑う。

「ぼくは自分が気持ち良くなりたいから、君に気持ち良くなってもらおうとしているだけさ。」

シュウはハルカの体を抱きしめていた腕を放して、手の平でハルカの頬を包む。

「じゃあ聞くけど、君はどうしてそんなにぼくを誘うのが上手なんだい?」

「……わたし、誘ってた?」

「いつもね。」

シュウはハルカを慈しむように見つめる。

「ぼくのベッドに入ってきたり、ぼくの胸に擦り寄ってきたり。ぼくは一時も心が休まらなかった。」

シュウの目にはもう先程までの暗い影は無い。

「今だってキスが上手いとか、唇を合わせたまま話すとか可愛いことをするし。」

ハルカの頬に朱が走る。

本当に無意識でやっていたのだろう。

「君はぼくに君を望ませるのがとても上手い。」

今度は唇が触れるだけのキス。

「心も体も君を望んでやまないよ、ハルカ。その望みがやっと叶う。」

シュウはハルカの両脇に手を付いた。

「君がぼくを受け入れてくれて、ぼくは本当に嬉しい。ぼくはやっと君を得られる。」

「わたしも、シュウがキスしてくれて嬉しいかも……。」

シュウを見上げるハルカの顔に数日前の怯えの色は無い。

ただ純粋に、シュウに受け入れられることを喜んでいた。

そんなハルカをシュウは拍子抜けした顔で見やる。

「……何、その顔。」

「君、これからぼく達がしようとしてること分かってる?」

「……一応。」

「キスくらいでそんなに喜んでたら、体がもたないよ。」

ハルカはその言葉にふくれる。

「いいじゃない。嬉しいことの積み重ねがあるから、大きな嬉しいことをより嬉しいと感じられるのよ。」

「確かに。」

シュウは頷いた。

「つまり、君はこれからすることを喜んでいる、と。」

「いきなり結論出したわね……。」

「君との言葉遊びも楽しいけど、それよりやりたいことがあるからね。ぼくなら手っ取り早く大きな嬉しいことに飛びつくかな。」

シュウはハルカの服に手を掛けた。

「こんな風にね。」

優しくハルカの服をはだける。

まず目に飛び込んできたのは肌の抜けるような白さ。

真っ白というわけではないのに、明かりに映える肌は何よりも白い。

何者にも汚すことの出来ない白。

次に目に入ったのはまろやかな曲線を描く胸。

柔らかく、それでいて弾力に富んでいるのが一目で分かる。

頂は鮮やかに紅く尖り、シュウを誘っていた。

下方に目を移すと、引き締まったウエストが見える。

腹の中心のくぼみがその細さを強調する。

ウエストの細さと胸の豊かさがコントラストをなし、一つの芸術品を創り出していた。

「シュウ……?」

恥ずかしさに顔を背けていたハルカが、何の反応もしないシュウを訝しがって声を掛ける。

シュウはその呼びかけにハッと我に返った。

「どうしたの?」

「……君に見とれていた。」

「は?」

「君があまりにも美しすぎるから。」

その言葉に、ハルカは呆然とこちらを見返してくる。

そんなにぼくが美しいと言うのが意外だったのだろうか。

「別に褒めたわけじゃないよ。ありのままを言っているだけさ。」

シュウはハルカの胸に手を伸ばす。

見ているだけじゃすぐに足りなくなる。

美しいものには触れたくなる。

自分の手でもっと美しくしたくなる。

「本当の美しさの前では、どんな褒め言葉も陳腐に聞こえる。」

シュウはハルカの胸を手の平で包んだ。

思った通り、柔らかく手に吸い付き、弾力を持って手を楽しませた。

ピクリとハルカの体が反応する。

「それでも言えるよ、ハルカ。君は本当に美しい。」

ハルカは赤くなって、再び顔を逸らした。

「明かり消してほしいかも……。」

「嫌だ。」

ハルカの要望を一蹴する。

「そんなにキッパリ断らなくても……。」

「嫌だと言ったら嫌だ。美しいものを見たい、聞きたい、感じたい。ぼくは余すところ無く君が欲しいんだ。」

「……わがまま。」

「何とでも。」

シュウはハルカの胸に置いている手とは反対の手で髪をかき上げる。

その手をハルカの顎にかけ、上を向かせた。

「それにね、ハルカ。」

シュウはハルカの顔を覗き込む。

「君はそんなことすぐに気にならなくなる。すぐに忘れさせてあげるよ。」

言われた意味が分からず、こちらを見返してくるハルカに微笑む。

顎から手を離し、ベッドについた。

「君は他のことを考える余裕なんて無いってことさ。」

シュウはハルカの胸に口付けた。

先程よりも大きく体が跳ねる。

強く吸い上げると、小さく声が漏れた。

赤く残った薔薇の花弁が美しい。

「ハルカ、ぼくの唇だけを感じて、ぼくだけで心を満たして。そして、ぼくだけを愛してほしい。」

シュウは再びハルカの胸に唇を落とした。




「あっ……。」

ハルカは幾度目かも分からない嬌声を上げる。

自分がこんな声を出せるなんて、今まで知らなかった。

それを分からせた彼は、わたしの胸に顔をうずめている。

ハルカは両手でシュウの頭を抱きしめていた。

ふわふわする。

ハルカはぼんやりと天井を見上げる。

白い天井が遠くて近く見えた。

視界に入る物の全てがぼやけて見える。

シュウの唇しか感じられない。

少しだけくすぐったくて、とても熱かった。

その熱さが心地いいのかどうか分からない。

それでも嫌ではなかった。

シュウが今までよりも強く胸を吸った。

「やっ!」

また声を上げてしまった。

見ると、彼が少しだけ顔を上げていた。

「何を考えてるんだい?」

「……わかんない。」

「ぼくのこと?」

「……多分。」

シュウはその言葉にクスクス笑う。

「はっきりしないね、ハルカ。そんなに気持ちいいのかい?」

「気持ちいい……?」

このぼんやりとして、ふわふわ宙を漂うような感覚は気持ちいいという感覚なのだろうか。

自分が今まで体験してきた気持ち良さとは、皆で頑張ってコンテストで優勝したり、グランドフェスティバルでいい演技が出来た時に得られるものだった。

その感覚と今の感覚は全く違う。

嬉しいのとも、楽しいのとも、気持ちいいのとも違う。

それとも、これは自分が今まで知らなかった気持ち良さなのだろうか。

「そうだよ、ハルカ。」

シュウがハルカの表情を読んで言う。

「これが一つになれる嬉しさ。心がはやる楽しさ。相手のこと以外何も考えられなくなる気持ち良さだ。」

シュウは髪に絡められたハルカの指を取って頬に当てる。

「君はグランドフェスティバルが楽しくて気持ち良かったと言ったね。それとこれは同じだけど違う。」

擦り寄ってくる彼の頬が柔らかい。

「コンテストは皆を魅せるためのもの。この気持ち良さは、相手に魅せられたもの。」

とても――気持ちがいい。

「コンテストは会場の全てを自分の舞台にする。今の会場は互いだ。」

ハルカは目を細めてシュウを見やる。

彼も微笑み返してくれた。

「相手が心に自分を入れてくれる心地よさ。相手が体に入ってくる快さ。それが今の君が感じている気持ち良さだ。」

シュウは頬に当てられたハルカの指を取って、手の甲に口付ける。

その唇は燃えるように熱かった。




シュウはハルカを眺める。

ハルカは先程よりもずっと美しい。

胸にも腹にも薔薇が舞い、白い肌を彩っていた。

しかし、邪魔な物が一つ。

それは脱げかけた服。

先程まではそれがハルカをより魅せているように見えたのに、今ではハルカの肌を隠す物にしか見えない。

ハルカの全てが見たい。

シュウはハルカの上着を脱がせて床に捨てる。

続いて、下半身を覆う衣服も全て脱がせてしまった。

シュウの目は顕わになったハルカの全てに釘付けになる。

「美しい……。」

呆然と口から漏れた言葉に、ハルカは恥ずかしそうに体を逸らす。

「どうして隠すんだい?とても綺麗なのに。」

胸を腕で覆い、自分に背中を向けるハルカにシュウは呼びかける。

背中に触れると、またピクリと動いた。

「ハルカ、君をもっとよく見せて。ぼくを魅せて。」

シュウは後ろからハルカを抱きしめる。

手に触れた胸は柔らかく、顔をうずめた髪からはいい匂いがした。

体に感じるハルカの裸体はとても熱い。

「……何でわたしばっかり。」

ポツリとハルカが呟くのが聞こえた。

「ん?ぼくだって君に振り回されているよ。君があんまりにも美しいから。」

シュウはハルカのうなじに唇を落とす。

震える体が愛しくて、ぎゅっと抱きしめた。

「……そういう意味じゃなくて。」

ハルカが喘ぎを抑えながら言う。

「どうしてわたしばかりシュウに見せなきゃいけないのかってことよ。」

「……どういう意味?」

「……。」

ハルカは胸に回された腕を握る。

「……服。」

腕に纏っているシャツを。

「シュウは服脱いでないじゃない。……シュウばっかりずるいよ。」

ハルカの言葉にシュウは目を見開く。

「……そうだね。」

君が欲しいばかりに、自分を見せるのを忘れていた。

相手を見たかったら、自分を見せるのは当然のことなのにね。

「そんなに機嫌損ねないで、ハルカ。」

よしよしとハルカの頭を撫でて起き上がる。

「シュウ?」

突然離れた温もりにハルカが振り返る。

しかし、すぐにまた背中を向けてしまった。

「そんなに照れなくてもいいのに。」

シュウは体からシャツを剥ぎ取っていた。

「君が脱がせてくれてもいいんだよ。」

「……。」

顔は見えないが、わずかに覗く耳が真っ赤になっていた。

シュウは可愛い反応を返すハルカに微笑みかける。

服を全て床に捨て、ハルカの背中を再び抱きしめた。

「君は本当に柔らかいね。」

熱いハルカの体は、服を着ていた時よりもずっと快かった。

自分の体温と交じり合ってとても気持ちがいい。

「あ、あの、シュウ……。」

ハルカが焦ったような顔を向けてきた。

「どうかした?」

「あの、脚に……。」

ハルカの脚に既に硬くなっている自身が当たっていた。

「そんなに恥ずかしがることないだろう?」

「うう……。」

困ったように眉を寄せて赤くなるハルカを可愛いと思う。

「恥ずかしいと思うのなら、そう考えられないほどにぼくを感じさせてあげるよ。」

ハルカから体を離し、肩に手を掛ける。

仰向けに返すと、目を伏せていた。

「ハルカ、脚を広げて。」

「え……。」

思わずといった様子でハルカがシュウの顔を見上げる。

「ほら、早く。」

言いながらシュウはハルカの膝に手を掛ける。

少し力を込めただけで、簡単に脚は開いた。

「綺麗だね、ハルカ。」

「あんまり見ないで……。」

自分でも見たことがないのだろう。

それなのにぼくに見られた、自分でも知らない自分を。

それが恥ずかしくてならないのだろう、ハルカは大きな枕に半分顔をうずめていた。

シュウはハルカの秘部に手を伸ばした。

指でなぞると、熱い蜜が絡み付いてくる。

今までよりもずっと敏感に反応を返すハルカにシュウは笑いかけた。

「ぼくを感じてくれているんだね。」

とても嬉しくて楽しい。

シュウはハルカの蕾に指を挿れた。




「ああっ!」

何かが自分の中に入ってきた時、ハルカは思わず声を上げた。

先程までのふわふわした感覚なんて吹き飛んでしまった。

目の覚めるような衝撃、体の芯を揺さぶられるような強烈な異物感。

「大丈夫?」

シュウが顔を覗き込んでくる。

その時、自分の中に入ってきたのが彼の指だと知った。

「だい……じょうぶなんか……じゃない!」

シーツを握って何とか衝撃を逃がそうとする。

「でも、慣らしておかないと多分痛いよ。」

彼はますますわたしの呼吸を激しくさせる。

自分の中でシュウの指が動いているのが分かった。

「うっ……やっ……はあっ!」

指が動く度に漏れる声を抑えることが出来ない。

「ああっ!」

彼の指がさらに奥に入った瞬間、自分の中の何かが破られる音と一緒に目の前が弾けた。




荒い呼吸を繰り返していると、シュウがまた顔を覗き込んできた。

「君、一人だけ気持ち良くなってずるいよ。」

ちょっと慣らそうとしただけなのに。

彼の不満そうな声にこちらも不満がつのる。

「こんなの……知らなかった!」

知らなかった。

目の前が真っ白になるような電撃。

自分の中心をさらっていく波。

自分の全てを焼き尽くすような激しい炎。

こんな感覚知らなかった。

「それは当然。」

彼は何故か自慢げに胸を張る。

「君にこの気持ち良さを与えられるのはぼくだけさ。」

「気持ちいい……?」

さっきの衝撃も気持ちいいという感覚なんだろうか。

大丈夫ではなかったが、少なくとも嫌ではなかった。

「そして、ぼくを気持ち良くさせられるのも君だけだよ、ハルカ。」

シュウはわたしの顔の横に手をついた。

もう片方の手を彼自身に添えている。

「さあ、ぼくを受け入れて、ハルカ。君の全てで。」

その言葉と一緒に、先程とは比べ物にならない衝撃が奔る。

「うっ……ああっ!」

目を開けていられない。

息が出来ない程の異物感に思わず涙が零れる。

シュウがわたしの奥に進もうとしている。

わたしは無意識の内に脚を閉じようとしていた。

「力を抜いて、ハルカ。大丈夫だから。」

恐る恐る目を開けると、彼は苦しそうな顔をしていた。

どうしてそんな顔してるの……?

にじむ視界の中で何とか彼の頬に手を伸ばす。

彼は頬に当てられた手を目を閉じて受け入れてくれた。

「大丈夫、怖くないよ、ハルカ。何も恐れることは無い。」

彼はわたしの背中に手を回す。

「それでも怖いのなら、ぼくを抱きしめて。すぐに気持ち良くなる。」

そのままぎゅっと抱きしめてくれた。

わたしも彼の背中に恐る恐る手を回す。

「……続けるよ、ハルカ。」

その言葉と同時に、また衝撃が襲ってきた。

わたしは彼を抱きしめ続けた。




シュウはハルカの中を進みながら、理性が崩れていくのを感じていた。

初めての感覚に怯えるハルカに優しくしてあげたかった。

ハルカが怖がらなくなるまで待っていてあげるつもりだった。

そんな考えはどこかに吹き飛んでしまった。

もうハルカしか感じられない。

もっとハルカを感じたい。

もっとハルカの中に入りたい。

「シュウ……シュウ……っ!」

ハルカがうわ言のように名前を繰り返す。

背中に回された手は爪を立てていた。

「くっ……。」

それが痛いのかどうか分からない。

快楽と痛みの境が分からない。

「ハルカ……。」

さらに彼女の中に入る。

動く度に爪が食い込んでいた。

「愛しているよ……。」

彼女の最奥を一突きした時、彼女と自身の限界が来た。

「ああっ……!」

彼女の声と共に、彼女の中に自身の全てを注ぎ込む。

荒い呼吸を繰り返しながら、シュウはくたりとハルカに覆いかぶさった。




シュウはハルカの髪を優しく撫でていた。

あの後、ハルカは気絶するように眠ってしまった。

胸にもたせ掛けていたハルカの頭を少し離すと、目を閉じたハルカの顔が見える。

安らかな寝顔だった。

とても愛しい顔。

「ありがとう。」

聞こえないと知っているが、シュウはハルカに話しかける。

「ぼくを受け止めてくれてありがとう。」

胸に耳を寄せると、温かい鼓動が聞こえてくる。

「ぼくに君を受け止めさせてくれてありがとう。」

寄せては返す波のような鼓動に心が安らぐ。

「君を受け入れて、君に受け入れられて、ぼくはとても幸せだ。」

とろりと目が閉じてくる。

「本当にありがとう……ハルカ。」

シュウは愛しい恋人を抱きしめて眠りについた。

 

 

 

 

 

裏部屋に戻る

inserted by FC2 system