新学期も相変わらず、休み明けの罠
楽しい長期休暇の後には、これまた楽しい学校生活が待っている。
学校なんて大嫌いという学生は世間には溢れているだろうが、ホグワーツ魔法学校にはそんな生徒は一人もいない。
ホグワーツ特急は夏休みを終えた生徒を満載して走る。
各コンパートメントでは、長い休みの間会えなかった友人と談笑する生徒の姿があった。
「カナタ、久しぶりー!」
その中の一つで、友人と夏休みの思い出を話していたカナタの元にやってきたのは、いつも一緒に行動しているハルカではなくカスミ。
「よう、カナタ!元気そうだな!」
カスミの後に続き、彼女の恋人であるサトシも入ってきた。
「二人とも久しぶり。どうしたの?監督生専用コンパートメントにいたんじゃなかったの?」
サトシとカスミはハッフルパフの監督生である。
しかも、サトシはハッフルパフのクイディッチチームのキャプテンも兼ねているため、学内でも知名度は高い。
「ああ、そうなんだけど、みんなと久しぶりに会えると思うと嬉しくってな。こうやって色々回ってるんだ。な、カスミ!」
「そうなの。それで、カナタのところにも挨拶に来たのよ。」
久しぶりに友人に会えたことを喜び、二人は嬉しそうに笑う。
「そうなんだ、ありがとう。そういえば、率先してコンパートメントを回っていそうなハルカの姿が見えないけど……。」
カナタは二人の後ろを見やる。
「ああ、ハルカだったら、俺達が出る前までレイブンクローのキミマロと楽しそうに話してたぜ。」
サトシは顎に手を当てて思い出しながら言う。
「でも、キミマロも友達に挨拶してくるとか言って俺達と一緒に出たから、今は監督生専用コンパートメントにシュウと二人でいるんじゃないかな。」
「シュウと二人っきりなの!?」
カナタの大声にサトシは驚く。
「おいおい、そんな大声出してどうしたんだよ。同じ監督生なんだから、コンパートメントも一緒なのは当然だろう?」
サトシは鈍感でも有名だった。
「カスミも苦労するわね……。」
「わかる?」
カスミは苦笑して言う。
「でも、せっかく久しぶりに会ったんだから、あの二人も色々話したいことだってあるわよ。」
カスミは他人の恋愛には興味津々だけど、ちょっと楽天的なところがあるからなぁ……。
やっぱり、この二人はお似合いかもしれない。
カナタは心の中でため息をついて思う。
ハルカ、まだ学校にも着いてないのに大変ね。今学期が思いやられるわ。
「それより、みんなでゲームしようぜ!ダイアゴン横丁で新発売のやつだぜ!」
「うん、やるやる!」
何だかんだ言っても、あの二人はうまくやっていくでしょ。
カナタはハルカの心配をきっぱりやめて、ゲームに集中することにした。
カナタの心配は当たらずとも遠からずといったところだった。
ハルカはシュウの二人っきりのコンパートメントで気まずさに耐えていた。
「……シュウ、何怒ってるの?」
「別に怒ってなんかいないよ。」
テーブルを挟んで真向かいに座っているシュウは、静かというより冷たい口調で言う。
本に目を落としたままで、ハルカを見ようともしない。
シュウの不機嫌の理由が分からないハルカは、意味もなく室内に視線を泳がせた。
監督生専用コンパートメントは広い。
普通のコンパートメントの数倍はあるし、大きなテーブルも備え付けてある。
ここだけは棚の上に各種の食べ物や飲み物が置いてあるため、売り子の魔法使いが来ることもない。
監督生同士の話し合いのため、通路からは見えないよう頑丈な扉が備え付けられている。
しかし、今はその頑丈な扉を見ていると、息が詰まりそうでハルカは目を逸らした。
サトシやカスミと一緒に行けば良かったな。今頃は二人ともカナタ達と遊んでるかも……。
ハルカは視線をシュウに戻した。
「シュウ、わたし、何か気に障るようなことした?」
「別に。」
シュウはにべもなく、ハルカの質問を切って捨てる。
シュウの態度に、ハルカは立ち上がってシュウの傍まで行く。
「ね、シュウ。どうしてわたしを見て話してくれないの?何か怒ってるんだったら、言ってくれなきゃ分かんないよ。」
自分の隣に立つハルカに、初めてシュウは視線を向けた。
しかし、一言も発することなく、本を置いて立ち上がり扉に向かう。
「シュウ!」
「君との話が終わってないのに出て行ったりしないよ。邪魔者が入らないようにするだけさ。」
頑丈な扉に備え付けられた、これまた頑丈な錠を下ろす。
そして、ハルカの傍まで戻ってきて座った。
ハルカは立ったまま、シュウが何か言うのを待っている。
「……君と会うのも久しぶりだね。」
「うん、夏休みの間はずっと会えなかったから。」
ハルカがシュウと会うのは本当に久しぶりだった。
だから、今日シュウに会えるのを楽しみにしていたのだ。
なのに、こんな冷たい態度を取られて、ハルカはどうして良いか分からない。
「……キミマロ君と楽しそうに話してたね。」
シュウは指を組み、口元に当てている。
そのせいで、ハルカにはシュウの表情が見えない。
「キミマロ君とはパパの仕事の関係で夏休みもちょくちょく会ってたもの。そのついでに一緒に遊んだり。さっき話してたのはその時のことよ。」
「楽しかった?」
「うん、とっても楽しかったかも!」
「ふうん……。」
シュウはゆらりと立ち上がり、ハルカの目の前まで来る。
ハルカがシュウの顔を見上げて何か言おうとしたが、それよりも早くシュウはハルカを抱えあげた。
そのまま、備え付けのテーブルにハルカを腰掛けさせる。
「な、何するのよ、シュウ――っ!?」
ハルカの言葉を飲み込むように、シュウはハルカに口付けた。
ハルカの唇をこじ開け、舌を差し入れる。
「ん……ふっ……。」
ハルカの舌を絡め取り、吸い上げる。
シュウがようやくハルカの唇を解放した時、既にハルカの息は上がっていた。
「い、いきなり、何を……。」
息が乱れてしゃべることもままならないハルカにシュウは冷たく告げる。
「君が夏休みに体験したことよりももっと楽しいことを教えてあげようと思ってね。」
君の体に――シュウのその言葉にハルカは震える。
「や、やだっ!」
ハルカはテーブルから飛び降りようとしたが、シュウはその両肩を押さえつける。
「逃げられると思ってるの?杖はトランクの中だし、鍵を掛けてあるから助けも来ない。何より、ぼくがみすみす君を逃がすとでも?」
シュウの瞳の中にある光に、ハルカはぞっとした。
スリザリン――蛇の眼――の持つ欲望の光がハルカを捕らえていた。
「やっ――!シュウ、やめて!」
シュウはハルカの服をはだけさせ、鎖骨の上を吸い上げる。
薔薇の花弁が舞い散る中、ハルカは必死に懇願していた。
その声が聞こえないかのように、シュウは所有印を増やし続ける。
「お願い、やめて!」
シュウを押し返そうとするハルカの両手を捕らえ、シュウは片手でその動きを封じてしまう。
「少し静かにしていなよ。」
その言葉と同時に、シュウはハルカの下半身を覆っていた衣服を取り去った。
「やだ……やだよ……、シュウ、やめて……。」
ハルカのすすり泣きが部屋に響く。
ハルカの蕾にシュウは口付けていた。
唇を落とすごとに、ハルカが高まっていくのが分かる。
それなのに、彼女は自分を拒絶するばかり。
ならば――。
「分かった。」
先ほどまであれだけ執着していたハルカを突き放し、シュウは席に戻る。
外しておいた眼鏡を掛け、本を手に取った。
「シュウ?」
「嫌なんだろう?ぼくに抱かれるのが。」
あとは勝手にしなよ――そう言って、シュウはページをめくる。
ハルカは突然のシュウの拒絶に、どうして良いか分からなくなっていた。
さっきまであんなにやめてくれるよう頼んでも、わたしを抱こうとしていたのに、どうしていきなり……。
疑問よりも、ハルカは自分の震える体を抱きしめた。
寒い……。
シュウがいた時は熱くてたまらなかったのに。
でも、体とは裏腹に、下半身はどくどくと脈打ち、熱さを訴え続ける。
自身の蕾から溢れる蜜はテーブルに滴り落ち、水たまりを作っていた。
ハルカはシュウを見た。
シュウはこちらに全く興味を示さず、本のページをめくり続けている。
「シュウ……?」
「早く服を着たらどうだい。風邪を引くよ。」
「でも……だって……。」
唐突に快楽を取り上げられた体は自分の言うことを聞いてくれない。
蕾はシュウを待ち続け、蜜を出し彼を誘う。
「シュウ、お願い……続けて……。」
「本を読み続けてってことかい?それなら今しているだろう。」
シュウは興味なさそうに言い放つ。
「違う、わたしを……。」
「拒絶したのは君の方だろう。何を今更。」
「もうそんなことしない。だから……。」
「あんなに嫌がっておいて?」
「お願い……シュウ、来て……。」
「それじゃあ分からないね。君はぼくにどうしてほしいの?」
シュウは本を閉じてニヤリと笑った。
その笑みを見て、ハルカはシュウに嵌められたことを悟る。
だが、それを分かっていても――分かっているからこそ、この高ぶりを受け止めてくれるのはシュウだけだと気付いていた。
「シュウ……挿れて……。」
その言葉に、シュウは立ち上がり、ハルカの頭を撫でた。
「いい子だ、ハルカ。」
眼鏡を外したシュウはテーブルに乗り、ハルカに覆いかぶさる。
「じゃあ、いくよ、ハルカ……。」
シュウはハルカの蕾に自身をあてがい、一気に貫いた。
「ああっ!」
ハルカの体が大きくしなる。
「っ、久しぶりだときついな……。」
シュウの言葉通り、思い切り突いたというのに、彼自身は少ししか入っていない。
それでもシュウはハルカを求め、無理やり押し入っていく。
ハルカは不規則に打ち付けられる彼自身に敏感な所を思い切り突かれ、目の前が真っ白になった。
「やれやれ、まだぼくが入りきれていないのに、君だけイってしまうとはね。」
気を失っているハルカの髪を撫でながらシュウは笑う。
久しぶりだけあって、君の感度は高いみたいだ。
もちろん、ぼくもだけど。
「気絶してるところ悪いけど、ぼくももう堪えきれそうにないよ……。」
そう言って、シュウはハルカに再び腰を打ちつけ始めた。
ハルカの中は狭くて熱くて気持ちが良くて……おかしくなってしまいそうだ。
ようやくシュウ自身が根元まで入った時、ハルカが目を覚ました。
「シュウ……っ!?」
目を覚ましたハルカは、無意識の内に、彼自身を強く締め付ける。
「くっ……!」
早く来いって言われてるみたいだ…こんなに締め付けられちゃ長くは保てない……!
シュウはハルカを突き上げ、彼女の中に自身の猛りをぶちまけた。
「ハルカ……。」
シュウがハルカに体重を掛けないようにしながらも、息を切らせて名前を呼ぶ。
「な、何……シュウ?」
目を覚ました途端、ひとわき大きな衝撃を与えられたハルカは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「君を楽しませると言ったけど、君はまだ十分楽しんでいないだろう?」
「なっ!?そんなの、シュウがまだやりたいだけじゃない!」
ハルカの怒声が響く。
「そうだね。まだ足りない。」
でも、それは君も同じだろう?
吐息と共に耳に吹き込まれた言葉は、ハルカに熱を取り戻させるのには十分だった。
テーブルの上で、二人はさらに絡み合う。
シュウの猛りは何度放っても収まることはなく、ハルカもまたシュウ以外の何も考えられなくなるほどにシュウに酔いしれた。
「随分と無理をさせたけど、楽しかっただろう?」
シュウは、行為の最後に気絶してから眠り続けているハルカの髪を梳いた。
「疲れただろうね。ぼくも久しぶりに君を抱けて加減が出来なかったんだ。」
ハルカをテーブルから抱き上げ、座椅子に寝かせる。
「君は楽しそうにぼく以外の男と話してるし……君を楽しませるのはぼくの役目だよ。」
シュウは、彼だけを見て、彼の名前だけを呼び続ける先程のハルカを思い出して笑った。
「やっぱり君はぼくだけの物でないとね。」
シュウは窓に近づき、一杯に開ける。
部屋に立ち込めていた熱気が外に流れ出ていく。
「さ、皆が戻ってくる前にハルカを起こさないとね。彼女の裸を皆に見られたらと思うとぞっとする。」
ハルカの傍に戻り、シュウは眠るハルカの額に口付ける。
「君の声も、君の手も、君の肌も――君の全てはぼくに捕らえられている。君はぼくの物だ。」
ハルカを見つめるシュウの瞳には、サラザール・スリザリンが最も重んじたという野望が渦巻いていた――所有と独占という名の野望が。