サオリさんはシュウ君のお姉さん
シュウ君と私は、ポケモンの魅力を最大限引き出し、ポケモンコンテストに出場してそれを披露するコーディネーター仲間。
いくつかの大会で会ってるうち、彼とは仲良くなって連絡を取り合うようになった。
前々から打ち合わせていた通りに、私の泊まっているホテルにシュウ君から電話がかかってくる。
シュウ君の電話はいつも約束の時間ピッタリ。
あの子の几帳面さがよく表れているわね。
「シュウ君、こんばんは。最近の調子はどう?」
「悪くないですよ。でも、今日のカイナ大会ではリボンを逃してしまいました。」
「カイナ大会って言ったら、ロバートさんも出場していたでしょう?彼は強いから。」
「ええ、優勝したのはロバートさんです。でも、次は負けませんよ。」
シュウ君は熱を込めて言う。
彼が負けないと言ったら、本当に負けないのだろう。
彼は言ったことはキチンと成し遂げようと努力する子だから。
それから、コンテストやポケモン達の様子を色々話した。
「そういえば、今回の大会で面白い子と対戦しましたよ。出会ったのは二週間ほど前ですが、今日がコンテスト初出場だったようです。」
「へぇ。私とシュウ君が初めて会ったのも、シュウ君のデビューの日だったわね。」
シュウ君と会ってから随分と時が経ったように思う。
彼はめきめきと力を付けてきて、今では私と肩を並べるほどのコーディネーターに成長した。
「彼女は賑やかで落ち着きが無くて。でも、ポケモン達と楽しく演技するというのを本能的に知っている人でした。」
「ふうん。シュウ君が他のコーディネーターをそこまで褒めるなんて珍しいわね。」
「そんなことありませんよ。彼女はまだまだ未熟ですし。」
シュウ君は二次審査の一回戦で彼女と当たったらしい。
「彼女はがむしゃらで、それでも力強くて真っ直ぐで。昔の自分を見ているようでしたよ。」
恥ずかしそうにシュウ君は頬をかく。
そこで私はあることに気づいた。
「シュウ君、彼女って言ってたけど、それって女の子?」
「ええ。名前はハルカ。赤いバンダナが特徴的な元気すぎる子ですよ。」
その日から、シュウ君はことある毎にその子を話題にした。
「今日のハジツゲ大会では彼女が優勝したんですよ。ぼくは彼女に当たる前に負けてしまったんですが…。リボンを3つGETしていい気になっていたんでしょうか。」
シュウ君はその時のことを思い出すようにして言う。
負けた悔しさと、ハルカさんという女の子が勝ったことを祝福する二つの気持ちが顔に出ていた。
「ぼくのロゼリアが重傷を負ってしまって、今回のシダケ大会には出場できませんでした。でも、ぼくを倒したファントムというコーディネーターを破って、彼女が優勝したんですよ。」
彼は大会に出られなかったのに、本当に嬉しそうに言う。
「あの彼女がぼくの勝てなかった相手に勝った。彼女も成長してるんですね。」
「彼女、この間のルイボス大会では自分を過信して自滅してしまいました。」
彼は自分のことのように憤っていた。
「彼女の成長力には目を見張るものがありますから、天狗になってしまうのも予想できたことでした。ぼくも他人のアドバイスをただのやっかみだと思っていた時期がありましたし……。」
その時のことを思い出したのか、本当に情けないといった顔をする。
「でも、今回の失敗をバネにまた一段と強くなるでしょう。彼女と再戦できる日が楽しみです。」
ハルカさんはシュウ君にアドバイスまでもらっていたらしい。
彼は何でも一人でやってしまうから、他人に干渉なんてめったにしないのに。
どんな子なのかしら、ハルカさんって。
「聞いてください、サオリさん!ぼく達、マボロシ島に行ったんですよ!」
いつも冷静なシュウ君が子どもみたいに興奮している。
もちろん彼はまだ子どもなんだけど。
「そこでチイラの実をソーナノ達から貰ったんです!」
彼はコーディネーターなら誰もが欲しがるその実を画面に映した。
「でも、ハルカはチイラの実すら知らなくて。全くいままでどうやってポロックを作ってきたんだか。」
シュウ君、今、ハルカって呼び捨てにしたわね。
「ハルカさんと行ったの?」
「ええ。そこに辿り着いたのは事故のようなものだったんですが、ハルカは全く緊張感が無くて。ソーナノ達とおしくらまんじゅうして遊んでいたんですよ。」
シュウ君が優しい目をしている。
こんな目をして誰かのことを語るシュウ君を私は初めて見た。
「ホウエングランドフェスティバル準優勝おめでとう、シュウ君。」
「ありがとうございます、サオリさん。今回は優勝できませんでしたが、次こそ優勝してみせます!」
グランドフェスティバルが終わったばかりだというのに、もうトレーニングを始めているみたい。
「そうそう、テレビであなたと戦っている女の子を見たわ。あの子がハルカさんね。」
「ええ、そうです。全くハルカは今回、自分のポケモンではなく、競争相手の言うことを信用して一次落ちしかけたんですよ。もう少し学習してもらわないと、危なっかしくて見ていられない。」
「でも、シュウ君、楽しそうだったわ。グランドフェスティバルで戦った相手は何人もいたけど、ハルカさんと戦ってる時が一番。」
その言葉にシュウ君は頷く。
「ハルカとのバトルでフライゴンをデビューさせようと決めていたんです。彼女は強かった。」
「またハルカさんと戦えるといいわね、シュウ君。」
「はい!」
「シュウ君、今度はカントーのグランドフェスティバルに出場するんでしょう?だったら、私と同じね。」
「サオリさんもですか?手強いライバルが増えましたね。」
シュウ君は不敵に笑う。
「でも負けませんよ。リボンも一つGETしました。」
そこでシュウ君は思い出したように話し始めた。
「この前、戦力強化のためにウインディをGETしようとしたんですよ。そうしたら、偶然ハルカに会いましてね。どういうわけか、彼女とウインディ争奪戦を繰り広げることになってしまいまして……。」
彼は不敵な笑みではなく、本当の笑顔を浮かべる。
「でも、ぼくらはウインディをGETするのは諦めました。あのウインディには子どもがいましたから。それよりも、彼女と組んでダブルバトルをしたんですよ。本当に楽しかった。」
「そう、それは良かったわね。」
「ええ。」
シュウ君、ハルカさんのことを話すとき、自分の表情がコロコロ変わってるなんて気づいてないわね。
彼は自分がハルカさんのことをどう思っているか考えたことあるのかしら。
「シュウ君、今はユズリハにいるんですって?」
「ええ。ポケモン達を休ませようと思って。」
「そこで丁度行われていたコンテストにハルカさんが出ていたのは偶然かしら?」
「……どういうことです?」
シュウ君の顔に警戒の色が表れる。
「ポケモンを休ませるだけなら、わざわざユズリハに行かなくてもいいはず。あなたが最後のリボンをGETした会場からは随分と離れているわ。あなたは休みに行くのに、疲れるような道のりを進んだと言うの?」
少し意地悪を言ってみる。
「……偶然ですよ。それ以外の何でもありません。」
「そう。じゃあ、質問を変えるわ。」
私は指を組みなおす。
「あなたはハルカさんのこと、どう思っているの?」
「なっ!?」
彼の反応に私は確信する。
「私の質問の意味を正しく理解したということ、それ自体が質問の答えになっているわね。」
「……。」
「恋って自覚したのはいつ?」
「……すみません、これ以上は……。」
彼は赤くなって、画面から顔を逸らす。
シュウ君って背伸びしてる弟みたいだから、たまにからかいたくなるのよね。
ハルカさんとのことを言われて恥ずかしがっているシュウ君は、年相応のただの男の子に見えた。
「サオリさん!ハルカが5つ目のリボンをGETして、カントーグランドフェスティバルの出場を決めましたよ!」
シュウ君は自分が大会で優勝した時よりもずっと嬉しそうに言う。
「そう、それは良かったわ。私もようやくハルカさんに会えるのね。」
シュウ君が好きになった女の子に会える。
セキエイ高原にはグランドフェスティバルだけではなく、こんな面白そうなことも待っている。
「シュウ君、あなたと戦えるのを楽しみにしているわ。」
そして、ハルカさんと戦えるのを。
シュウ君とハルカさんの二人がどんなバトルを繰り広げるのか今から楽しみだわ。
それがコンテストバトルであれ、恋の駆け引きであれ、ね!