タンゴよりも情熱的に 〜赤き望み〜

 

 

 

 

 

 

真夜中、広大なホグワーツの片隅で子猫は目を覚ました。

ここは監督生棟の会議室。

今まで子猫は大きなソファーで眠っていた。

体に絡みついた狼の腕を解いて起き上がる。

そして、自分を起こした原因が差し込む窓を見た。

子猫の目に映ったのは不思議な色をした満月。

カーテンを引き忘れられている窓から眩しい光が入ってきていた。

その光に惹かれるように子猫はソファーから飛び降りる。

床に散らばった服を踏まないよう気をつけつつ、子猫は窓の傍まで四足で歩いていった。

窓枠に両手をかけて外を見つめる。

禁じられた森の上に浮かぶ満月が子猫の瞳と対極の色で子猫を見つめ返した。

子猫はしばらく満月と睨めっこをしていたが、やがて床に手をついてソファーに戻っていった。

しかし、ソファーに飛び乗っても、目覚める前のように狼の胸に潜り込もうとしない。

静かに眠る狼を満月を見ていた時と同じようにじっと見つめていた。

視線をずらさぬままで子猫はゆっくりと狼に顔を近づける。

唇をペロリと舐めた。

一度顔を上げ、狼が目を閉じて眠ったままなのを確認する。

もう一度顔を近づけ、今度は何度も舐めた。

ペロペロと舐めている内、狼が小さく眉を動かした。

それを見た子猫は体を起こそうとする。

しかし、それは頭の後ろにいきなり回ってきた手に阻まれた。

子猫の舌は狼の唇に捕らえられる。

ひるんだ隙に、子猫は背中をもう一本の手で押さえられてしまった。

狼を舐めていたはずの子猫の舌は狼に舐め取られてしまう。

しばらくの間、子猫は悪戯好きな狼に捕まっていた。

存分に子猫の舌と喘ぎを味わった狼が子猫を解放する。

「おはよう、ハルカ。」

にこりと笑った狼が子猫の名前を呼んだ。

「……まだ夜よ、シュウ。」

ハルカが息を整えながら狼に小さく言う。

「人間にとってはこんばんはでも、ぼく達にとってはおはようさ。今のぼく達は夜行性なんだから。」

シュウは上下するハルカの背中を撫でた。

「それでどうしたんだい?君がぼくより先に目覚めるなんて珍しいね。」

「……月が眩しかったから。」

「月?」

ハルカの指差す方向をシュウは首をひねって見る。

ハルカのときと同じく、満月はシュウを見つめ返した。

「なるほど、赤い月か。」

西の空に浮かぶ満月は目を奪われずにはいられないような赤い色をしていた。

「しかも満月。君を起こすには十分だね。」

「どうして赤くて満月だとわたしを起こすのに十分なの?」

「君が黒猫だから。」

シュウは起き上がって、一緒に起き上がったハルカの黒い猫耳に触れる。

「満月は魔性の象徴。赤い月は不吉のしるし。そして黒猫。」

シュウは三角の耳に口を寄せた。

「君は不吉を届ける者。」

吐息と共に吹き込まれた不気味な言葉にハルカはふるりと身を震わせる。

「……だったら、わたしはシュウを不幸にしてしまうの?」

不安げな瞳で自分を見上げるハルカにシュウは微笑みかけた。

「それは人間達の迷信さ。」

不吉と言われた時、無意識の内に自分から離れたハルカを抱き寄せる。

「狼のぼくにとって満月は力を与えてくれる存在。血の色がさらにそれを強めてくれる。そして黒くしなやかなぼくの可愛い子猫。」

白く柔らかな肌を指でなぞる。

「破壊の権化である狼に相応しい相手など君の他にいないよ。」

ハルカの瞳が光を見出したかのように細められる。

「シュウは破壊なんてしないじゃない。」

「そう。だから、君も不幸を呼ぶ存在ではないということさ。」

シュウは一旦腕を放し、ハルカの頬に手を添えた。

「君が起きてしまったのは満月が君を呼んだからだろうね。魔力の強い者を満月は好むから。」

その言葉にハルカは小さく首を傾げる。

「だったら、どうしてシュウは呼ばれないの?シュウだって魔力強いじゃない。」

「ぼくだって呼ばれるよ。でも、満月の好みにより近いのは君だからね。」

「私?」

「そう、君。」

シュウは触れるだけの口付けを落とす。

「君は太陽と同じ匂いがするから。黒い毛並みを持ちながら、白い光と同じ匂いが。」

顎から手を離し、ハルカの後ろで揺れていた尻尾を掴む。

「明るく眩い魔力。満月は君を呼ばずにいられない。」

黒い尻尾を自分に引き寄せたシュウはその尻尾にも口付けた。

ピクリとハルカの体が跳ねる。

「そして、君はその声を聞いて満月に感応してしまった。」

「……どういうこと?」

「こういうことさ。」

シュウはハルカの秘部に手を伸ばす。

指を這わせると湿った音がした。

ハルカが喘ぐのを見ながら、シュウはさらに指でかき回す。

身を引こうとするハルカの抵抗を尻尾を引っ張ることで封じた。

尻尾を強く引かれると力が抜けて抵抗できないハルカの癖をシュウはよく知っていた。

ハルカの蜜で手がそぼ濡れるまで、シュウはハルカの秘部から手を離さなかった。

一声啼いて自分にもたれかかってきたハルカをシュウは胸で受け止める。

「ほらね、触れてもないのに濡れてるし、挿れてもないのに達してしまうくらい、君は満月に当てられてしまったんだよ。」

「……妬いてるの?」

「まさか。」

涙目でクタリとしているハルカをシュウは機嫌良さげに眺めた。

「ぼくが満月の呼び声にあまり応えないのはね、満月がぼくと同類だからだよ。」

手に付いた蜜を窓の外に見せ付けるように舐める。

「満月はぼくが好きだし、ぼくも満月を好いているけどね、それよりもぼく達は二人とも太陽に惹かれるんだ。」

もう一方の手でハルカの顎を持ち上げた。

「だから、ぼくは満月ではなく君の呼びかけで目を覚ました。」

指先から垂れる蜜をハルカにも見せ付けるように舌で掬い取った。

「君がぼくに呼びかけたのは、ぼくの中に満月を見出したからか、それとも他の理由からか。いずれにしても、君はぼく以外に興奮させられてしまったんだね。」

顎を掴む力が強くなったのを感じて、ハルカは起き上がらせていた体を再びシュウの胸に預ける。

「やっぱり妬いてるんじゃない……。」

その言葉と動作にシュウはクスリと笑う。

「妬いてなんかいないよ。だって、満月は君に呼びかけることしか出来ないんだからね。」

シュウはハルカの顎から手を離す。

「こうやって触れることも。」

シュウはハルカの肩に両手をかける。

「こうやって押し倒すことも。」

ハルカは背中に柔らかなソファーの感触を感じる。

「満月には出来ない。」

シュウは笑う。

「でも、君を二度と呼ばないように満月に教えてやらないとね。君はぼくのものだって。」

シュウは優しくハルカの頬を撫でる。

「犯してあげるよ、ハルカ。ぼくから君を奪おうとした満月の目の前で。」

「……寝る前だってあんなにしたのに。」

漏れる言葉とは裏腹に、ハルカは笑みを浮かべた。

シュウの手に自らの手を重ねる。

「あなたの心のままに、やきもち焼きの狼さん。」

それを聞いて嬉しそうに尻尾を振るシュウの手にハルカは擦り寄る。

「そして、わたしの心のままに。わたしは満月よりもあなたに愛されたいわ。」

「それでこそ、ぼくの可愛い子猫。」

シュウはぎゅっとハルカを抱きしめた。






「あっ……。」

シュウがハルカの胸に唇を落とす度、その胸にシュウの印が浮かぶ。

赤い光に照らされ、その唇は炎のようにハルカの肌に痕を残した。

ハルカはシュウの唇が触れる度に両手で抱えたシュウの頭に力を込める。

幾度目かも分からない口付けにハルカが柔らかな毛をぎゅっと抱きしめた時、シュウが困ったように顔を上げた。

「ハルカ、腕離してくれないかい?」

「え……。」

ハルカは潤んだ瞳でシュウの顔を見上げる。

この腕を離してしまったら、どこに肌を吸われる快楽を逃がしたらいいのか分からない。

いつもの仮眠室のベッドのようにシーツは手元に無いし、シュウも服を着ていないから、それに縋り付くわけにもいかない。

ハルカも困った顔をしてシュウの頭を放さないでいると、シュウがため息をついた。

「まったく……。」

シュウはハルカに抱きしめられたままでハルカの頭に手を伸ばす。

「あんっ!」

ぎゅっと猫耳を握られ、ハルカの体は大きく跳ねた。

「君、これと同じことをぼくにしてるんだよ。せっかく君にも気持ち良くなってもらおうとしてるのに、ぼくだけイキたくなっちゃうじゃないか。」

そう言いながら、シュウは握った猫耳を離し、今度は優しく撫でた。

「ね、ハルカ、この腕解いてくれないかい?」

涙で潤んだ視界でシュウの頭を見ると、自分の右手が狼の耳を掴んでいた。

シュウが困ったように笑っている。

「ハルカ、いい子だから、ぼくが我慢できなくなる前に離して。」

「……イケばいいじゃない。」

「はっ?」

ハルカは狼の耳を握る。

「いつもわたしばっかりイカされて。たまにはシュウのイクところも見せてほしいかも。」

「……。」

返事の無いシュウを無視して、ハルカは狼の耳を何度も握った。

握るだけではなく、引っ張ったりいじったりして遊んでいると、シュウがハルカの手首を掴んで頭から引き離した。

「君ね、そんなにぼくのイクところが見たいんだったら存分に見せてあげようか?」

さっきまで困ったような顔をしていたはずなのに、今は何かを企むように笑っている。

シュウはハルカの体に覆いかぶさるのをやめ、ソファーに起き上がった。

掴んだままだったハルカの手首を引っ張り、ハルカも起き上がらせる。

ハルカはシュウと向かい合わせに座っていた。

「ほら、ハルカ、君のせいでもう我慢できないよ。」

シュウが高くそそり立った自身を示す。

「だからね、今回は君がイカせて。」

シュウは掴んだ手を引き寄せ、自身を握らせた。

「やっ!」

ハルカが手を離そうとするのを、自分の手で覆うことで防ぐ。

「ぼくがイクところを見たいんだろう?どうして恥ずかしがってるんだい?」

「だ、だって……。」

ハルカは真っ赤になった顔を伏せるようにして言う。

「熱いし、硬いし、大きいし……。これがいつもは自分の中に入ってるんだって思ったら……。」

「まったく、君という人は……。」

シュウが愛しげにもう一方の手でハルカの頬を撫でる。

「満月にはもったいないね。こんなに可愛いことをいう子猫は誰にも渡せないよ。」

ハルカに微笑みかけて、シュウはハルカごと自身を握る手に力を込める。

「あっ!シュ、シュウ!」

「ほら、手を動かして。ぼくを気持ち良くさせて。」

そう言いながら、シュウはハルカの手を動かす。

ハルカの少し冷たい手が火照った自身にとても気持ちいい。

ハルカはずっと顔を赤らめたままだったが、それでもきゅっとシュウを握った。

そのままシュウの動きに合わせて、手の平で彼を擦る。

「いい子だね、ハルカ……っ!」

シュウは向かい合ったハルカに欲望をぶちまけた。






「満足かい、ハルカ?」

シュウはニコニコ笑いながら、再び組み敷いたハルカに問いかける。

ハルカの胸や腹にはシュウの白い欲望が筋を作って流れていた。

「……シュウのイクところが見たいなんて二度と言わないかも……。」

シュウに視線を合わせずにハルカは小さく呟く。

頬を赤く染め、猫耳をペタリと伏せていた。

右手を所在無げに閉じたり開いたりしている。

「離したのにまだ感じてるの?」

シュウが右の手首を掴むと、ハルカは体を震わせた。

猫耳もふるふる震えている。

「君の右手がぼくを忘れた頃にまた見せてあげる。」

「もう結構かも……。」

「そんなこと言うと、左手にもぼくを覚えさせるよ。」

「うう……、何でわたしがこんな目に……。」

羞恥に目をぎゅっと閉じるハルカをシュウは見やる。

「君が望んだからに決まってるだろう。せっかく叶えてあげたのに、ぼくの子猫は恩知らずなんだから。」

ハルカの細い手首を離す。

「シュウ?」

その手はハルカの脚を掴んでいた。

「言っただろう?あの赤い満月に見せ付けてやるって。」

シュウはハルカの両脚を自分の肩にかけた。

「シュウ!?」

「ほら、こうすると、ぼくは君がよく見えるし、満月はぼく達の繋がっているところがよく見える。」

シュウは愛しげにハルカの秘部に視線を注ぐ。

熱い視線の前に顕わになってさらなる羞恥に襲われたハルカは再び目を固く閉じる。

蕾はそんな心に反応して蜜を滴らせていた。

「可愛いね、ハルカ。」

シュウは微笑い、再び硬くなり始めた自身を蕾にあてがう。

「さあ、ぼくがまたイクまでに君は何度イってくれるかな。ぼくをイカせたんだから、それなりの覚悟はしておきなよ。」

その言葉にヒクリと反応する蕾を貫いた。






「はっ!やっ!ああっ!」

赤い光の中でいつもより激しく喘ぐハルカをシュウは見やる。

掴んだ腰を引き、自身で突くと、大きく仰け反った。

その白い喉も月に照らされ、血の色に染まる。

噛み付きたい――その思考は腕に巻きついてきた黒い尻尾に中断された。

「ハルカ、痛いよ。」

ギリギリと腕を締め上げてくる子猫の尻尾をシュウは優しく撫でる。

その言葉も耳に入らない様子でハルカはシュウの腕を締め続けた。

「まったく……。」

シュウは小さくため息をつき、尻尾を撫でていた手で再び腰を掴む。

ひときわ強く腰を打ち付けた。

「やあっ!」

ビクリと跳ねた体は次の瞬間には力を失っていた。

シュウは緩んだ尻尾を腕から外す。

尻尾をソファーに放し、ハルカの激しく上下する胸に触れた。

「ハルカ、いつもより感度がいいみたいだね。」

言葉を紡いだ瞬間、自身が締め付けられるのを感じる。

「満月の赤い視線にヤラれちゃった?ダメだよ、君はぼくだけを見てくれないと。」

シュウは肩に置いたハルカの脚を抱え直した。

「さあイって、ハルカ。」

その言葉と共に、再び律動を刻む。

その動きはハルカが達するまで収まることは無かった。






何度絶頂に放り上げられたかも定かではない霞がかった視界でハルカは光の差し込む窓を見やる。

赤い月は禁じられた森に沈もうとしていた。

そこへ頭の芯を揺さぶるような衝撃が奔る。

「ハルカ、ぼくだけを見てって言っただろう?」

シュウの顔を見上げると、シュウはハルカの腰を抱え上げた。

「ご覧、ハルカ。満月だけに見せるのは勿体無いから、君にもぼく達が一つになっているところを見せてあげる。」

首を少し傾けると、彼が自分と繋がっているのが見えた。

思わず目を逸らすと、彼が笑うのが分かった。

再び全身に彼と交わっている所から衝撃が奔る。

一声大きく啼いたハルカは自分の力が抜け落ちていくのを感じた。

長い尻尾がソファーから零れているのが見える。

その尻尾を掴む手があった。

「ハルカ、満月が逃げていくよ。」

光を失いかけた満月にぼんやりと視線を向けると、尻尾を甘噛みされた。

「あ……っ!」

「お見送りはもう十分。あとはぼくが君の全てを喰らってあげる。」

自分の中に貫かれた時よりもずっと大きくなっている彼を感じる。

同時に自分の本当の限界が近いということも。

「シュ……ウっ!」

ハルカは必死でシュウに両腕を伸ばす。

その意図を感じ取り、シュウは肩に乗せていた脚を下ろした。

「ぼくの腕の中でイキたいんだね。」

シュウが自身をハルカに挿れたまま、体勢を変え、ハルカに覆いかぶさる。

その動きにもハルカは敏感に反応を返した。

「大丈夫、ぼくも君の腕の中でイってあげるから。」

シュウはハルカを優しく抱きしめる。

ハルカもシュウの背中に手を回した。

「動くよ、ハルカ。」

シュウが先程よりも激しく律動を刻む。

ハルカはその動きに翻弄されながら、ちらりと窓に視線を送る。

満月はほとんど見えなくなっていた。

その満月よりもずっと強い光に自分は抱かれている。

ハルカは自分を抱きしめる光を見る。

その光は闇に在るからこそ映え、闇の中で輝くからこそ眩しい。

惹かれずにはいられない、ただひたすらに照らすことしかできない自分は。

優しい光が自分に口付ける。

唇を離された時、彼の顔が潤んだ瞳に映った。

何よりも愛しい柔らかな光。

額に浮かぶ汗、煌く瞳、闇の中でもはっきり見えるそれらがただ美しいと思った。

最後の赤が消えた瞬間、強く突かれる。

大きく喘ぎ、ハルカは果てた。






子猫は目を覚ました。

窓の外は薄く明るかった。

ソファーを降り、東側の窓に近づく。

もうすぐ夜明けだった。

「そろそろお別れだね、ハルカ。」

振り向くと、いつの間にかすぐ後ろにシュウが立っていた。

「ぼく達の夜が終わる。ぼく達は戻らないといけない。」

屈んだシュウがハルカを抱きしめる。

「朝も昼もずっとあなたと一緒にいたいのに……。」

ハルカは寂しげにシュウの胸に頬を寄せる。

シュウはその頬を包んだ。

「今のホグワーツでそれは出来ない。だから――。」

今夜、月の昇る頃に、また。

太陽が顔を出した時、二人の約束は一つに重なった。

 

 

 

 

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