ラルースシティ周遊記 2
バトルタワーは今日も超満員だった。
観客の歓声がここまで響いてくる。
「うー、緊張するかもー!」
「コンテストほどじゃないだろう。もう少しリラックスしたらどうだい?」
二人は選手登録ゲートを歩いていた。
「コンテストとはまた違うわよ。それに……。」
「君がかかっているからね。実は、ぼくも少し緊張しているよ。」
シュウが前方を睨み付ける。
ゲートは終わり、床が上昇を始めた。
床がバトルフィールドに上がり切った時、先程とは比べ物にならない大歓声と光が二人を包んだ。
『さあ、今日一番の大勝負!我らがラルースの貴公子が、トウカの舞姫を連れて帰ってきたぞ!』
実況の煽りに怒涛のごとく歓声が上がる。
「もしかして、シュウって……。」
「有名人だよ。君も同じくらいね。」
このラルースでも――シュウが呆れたように、誇るように言う。
『対戦者は連勝街道まっしぐら!リュウ&ショウタコンビだー!』
ショウタとリュウの二人が歓声に応えて姿を現す。
「ハルカちゃーん!シュウの魔の手からオレが取り戻してあげるからねー!」
ショウタの台詞に、シュウからゆらりと炎が上る。
『おおっと!舞姫を奪わんと、魔王から貴公子への宣戦布告だー!』
「だから、何でオレが魔王扱いなんだよ!」
ショウタのツッコミを軽くスルーして実況は続ける。
『ダブルバトルは両者一体ずつポケモンを出し合って戦うぞ!勝つのは貴公子と舞姫のカップルか、それとも魔王に二人の愛は引き裂かれてしまうのかー!』
観客の歓声は、ショウタの「オレ達悪者じゃん!」という叫びをかき消して盛り上がる。
『さあ、君達の愛を見せてくれ!バトルスタート!』
「イーブイ、ステージオン!」
「フライゴン、GO!」
二人の呼び声に応えて、モンスターボールからポケモンが出てくる。
「行け、バシャーモ!」
「頼むぜ、カメックス!」
リュウとショウタが出してきたのは、ハルカにとって懐かしいポケモン達。
「ハルカ、あの二人は手強いよ。」
「知ってるわ。でも負けない!」
二人はキッと前を見据える。
「フライゴン!速攻で決めるぞ!はがねのつばさだ!」
シュウの指示に従い、フライゴンの羽が光る。
「避けろ、バシャーモ!」
「ジャンプだ、カメックス!」
宙を突進してきたフライゴンを二体は軽く避ける。
「カメックス!そのままフライゴンに高速スピン!」
高くジャンプしたカメックスが回転し、重力を味方につけて体勢を崩したフライゴンに迫る。
「イーブイ、シャドーボール!」
イーブイは、カメックスの軌道をシャドーボールをぶつけてずらし、その隙にフライゴンは体勢を立て直した。
「何をやっているんだ、フライゴン!次はかえんほうしゃだ!」
矢継ぎ早にシュウの指示が飛ぶ。
フライゴンの吐いた炎がカメックスを直撃した。
しかし、フライゴンの炎にもカメックスは平気な顔をしている。
「へっ!水タイプにそんな技が効くかよ!カメックス、ハイドロポンプで押し戻してやれ!」
カメックスのハイドロポンプが炎を打ち消し、フライゴンを吹き飛ばす。
「今だ、バシャーモ!フライゴンにスカイアッパー!」
バシャーモの拳が唸りを上げてフライゴンの顎を捉える――。
「イーブイ、フライゴンをまもるのよ!」
その直前、イーブイがバシャーモの前に立ちはだかり、まもる攻撃を展開した。
イーブイのまもりにバシャーモのスカイアッパーは阻まれる。
「シュウ、何やってるのよ!」
「うるさい!」
「なっ……!」
「フライゴン、はかいこうせん!」
莫大なエネルギーが相手に迫る。
「そんな隙の大きい技をここで使うとはね……。バシャーモ、避けてイーブイにブレイズキック!」
「カメックス、はかいこうせんをハイドロポンプで相殺して道を作れ!」
二人のコンビネーションが決まり、イーブイにブレイズキックがクリティカルヒットする。
「イーブイ!」
ハルカの叫びが会場にこだまする。
しかし、シュウはそれにも構わず、フライゴンに攻撃を続けさせようとした。
「シュウ!いい加減にしなさいよ!」
ハルカはシュウを怒鳴りつけた。
「フライゴン、イーブイを連れて空中に逃げて!」
フライゴンはシュウではなくハルカの指示に従う。
「フライゴン、何故攻撃しない!?」
「シュウ!状況をよく見なさい!何のためのダブルバトルなの!?フライゴンが一人で突っ走って勝てるわけないでしょう!」
しかし、ハルカの叱咤にもシュウは耳を貸さず、フライゴンに命令しようとする。
「シュウ!」
ハルカは右手を振り上げ、シュウの頬を叩く――と思いきや、シュウの手を取った。
「シュウが負けたくないと思ってるのは分かってる……。わたしを取られたくないんでしょう?でも、それはわたしだって同じ。わたしだって離れないように頑張るんだから!」
ハルカはシュウの手を握り締め、二体に指示を出す。
「フライゴン、そのまま空中を飛び回って!イーブイはシャドーボールで攻撃するのよ!」
ハルカの指示に従い、フライゴンは相手の攻撃を上手くかわし、イーブイはシャドーボールで攻撃を仕掛ける。
しかし、遠距離からの攻撃では弾道を読まれてしまい、シャドーボールはなかなか当たらない。
「ああ、もう!距離がありすぎるかも!」
「フライゴン!急降下してバシャーモとカメックスを分断しろ!」
シュウの声が響く。
「シュウ!?」
「ようやく目が覚めたよ。ありがとう、ハルカ。」
シュウもハルカの手を握り返す。
「いくよ、ハルカ!」
「うん!」
フライゴンからイーブイが降り立ち、それぞれカメックスとバシャーモに対峙する。
「バシャーモ、ブレイズキックだ!」
「カメックス、高速スピンの威力を見せてやれ!」
イーブイはバシャーモの蹴りを軽いフットワークでかわし、隙を見てアイアンテールをぶつける。
カメックスの高速スピンを宙に飛んでかわしたフライゴンは、鮮やかにりゅうのいぶきを決めた。
「フライゴン、そろそろとどめだ!」
「イーブイ、フライゴンにもう一度乗って!」
フライゴンは駆け寄ってきたイーブイを背に乗せ、相手の真上に急上昇する。
「スピードスター!!」
二人の声が会場に響き渡る。
イーブイとフライゴンから、輝くスピードスターが放たれた。
それはさながら流星群のように相手に降りそそぐ。
たまらずカメックスとバシャーモは倒れ伏した。
『カメックス、バシャーモ、戦闘不能!シュウ&ハルカチームが勝ちました!』
二人の勝利に会場は割れんばかりの歓声に包まれる。
『ご覧ください!ピンチに立たされながらもお互いを信じるその心!その心が魔王を打ち破ったのです!二人の愛が勝利を導いたのです!』
興奮した実況も観客に劣らず声を張り上げている。
「オレ達、完璧に悪者じゃん……。」
がくりと膝をついたショウタが呟く。
「まあ、あれだけ大口を叩いて負けたんだから格好悪いことは確かだね。」
リュウは苦笑する。
「やったー!シュウ、勝ったわよ!」
「ああ!君のおかげだ!」
シュウとハルカは互いに抱き合う。
『おお!これこそが愛の形だー!ラルースの皆さん、見てますかー!』
バトルの模様を中継していたラルース中の公共画面に二人の抱擁が映し出される。
大歓声と共に、ラルースの人々の心は一つとなった。
『……えっ?……はい、はい……分かりました……はい……では……。』
ようやく興奮が静まりかけた時、実況が床に降りてきた。
『素晴しいバトルを見せてくださったお二人に、バトルタワーのオーナー夫妻から特別にお祝いの言葉があります。』
「バトルタワーのオーナー?」
ハルカがオウム返しに言う。
「……ハルカ、今すぐここを出よう。」
シュウがハルカの手を引く。
「え、どうして?せっかく来てくれるのに。」
「いいから!」
もたもたしている内に、フィールドに設置されたエレベーターの扉が開いた。
中から一組の男女が出てくる。
女性の方はハルカに目をとめるなり、駆け寄って抱きついた。
「えっ!?」
「あなたがハルカちゃんねー!やーん、かわいー!」
男性の方はゆっくりと、抱きしめられ目を白黒させているハルカに歩み寄る。
「こんな可愛らしいお嬢さんを連れてくるなんて、シュウも隅に置けんな、はっはっは。」
「へっ!?あの、まさか……。」
ハルカがシュウを見ると、シュウは額に手を当て頷いた。
「この二人がぼくの両親だ……。」
「え、えええええええっ!?」
ハルカの絶叫がバトルタワーに響き渡った。