わたし、負けない! 2

 

 

 

 

 





ぼくの両親は無類の旅行好きだ。

今週末も二泊三日でどこかに二人で出掛けている。

中学生の息子一人残していくなんて、留守の間のことが心配じゃないんだろうか。

まあ、ハルカを堂々と家に招くことができるから、ぼくは助かっているんだけど。




ハルカがお風呂から上がって、ぼくの部屋に入ってきた。

ぼくは本から顔を上げ、のぼせた体を冷ますために座っていた窓際の席にハルカを手招きする。

でも、ハルカは部屋の入り口に立ったまま、こちらを見つめるだけで動こうとしない。

「ハルカ、風呂上りで君も暑いだろう。こっちに来て涼みなよ。」

そう言っても、ハルカはこちらを見つめ返すばかり。

その目を見てピンときた。

「ああ、君、もしかしてこの間のこと、まだ根に持ってるの?」

「なっ!そんなわけないかも!」

過剰な反応がそれを裏付けているってこと、気づいていないんだろうか?

「と、とにかく、喉が渇いちゃったから、何か飲んでくる!」

「ああ、冷蔵庫の中にジュースがあるから――。」

それを飲むといいよ、という言葉も聞かないうちに、ハルカはばたばたと駆け去っていく。

「随分警戒されちゃってるな。」

ぼくは独り言を呟いて、クスクス笑いを漏らした。



この間、やはりぼくはハルカを勉強合宿という名目で家に招いた。

もちろん、勉強もちゃんとしたんだけど、本番はやっぱりその後だった。

ハルカはぼくに言われるまでそれに気づいていなくて、ぼくに騙されたようなものだと思っているらしい。

そして、今回もそうなることを警戒して、ぼくに近づいてこないんだろう。

今回はそんなにがっつくほど飢えていないんだけどな……。

前回の勉強合宿のときは、テストがあってお互い忙しかったから、ずっと彼女を抱けなくてストレスがたまっていた。

だから、初めは抵抗する彼女を押さえつけるような真似をしてしまったんだけど。

その点、今回はこの間のこともあって落ち着いているから、彼女が欲しくてたまらないわけじゃない。

もちろん、彼女が受け入れてくれるなら、喜んで抱くんだけどね。

今日の勉強もいつもと同じく五教科を中心に、実技を兼ねた調理実習。

今晩のメニューはスパゲティーだった。

ハルカもぼくもミートソースが好き。

こんなちょっとした共通点を見つけると嬉しくなる。

明日は次のページに載っていた杏仁豆腐でもデザートに作ってみようかな。

そんなことをつらつらと考えていたら、ハルカが戻ってきた。

「シュウー!」

彼女はいきなり、ぼくの名前を呼びながら、ぼくに抱きついてきた。

「ハ、ハルカ?」

嬉しさよりも戸惑いが先に立った。

どうして、さっきまでぼくを警戒して近寄ってもこようとしなかったハルカが、今はぼくに抱きついている?

ぼくの胸に頬を擦り寄せているハルカをひとまず引き剥がす……惜しいけど。

「ハルカ、突然どうしたんだ?」

彼女はそれに答えず、ぼくに口付ける。

「んっ!?」

彼女が舌を入れてくる。

微かに柑橘系の香りがする。

それと、この甘さ、この苦味は――。

「ソルティードックを飲んだのか!?」

「何それ?わたしはグレープフルーツのジュースを飲んだだけよ。ちょっと苦かったけど。」

「そういう名前のお酒なんだよ……。」

ぼくは額に手を当てる。

ソルティードックという酒は、ジンをグレープフルーツの果汁で割ったものだ。

その甘さで女性にも人気の高い酒だが、アルコール度数は決して低くない――むしろ高い。

「とにかくハルカ、君の飲んだのはお酒なんだ。すぐに寝た方がいい。」

ぼくはハルカをベッドに引っ張っていく。

ハルカは無言でついてきたが、ベッドの前で一言。

「やだ。」

その瞬間、ぼくの視界が反転して――気がついたら、ぼくはベッドに仰向けになっていて、彼女はぼくの上に乗っていた。



何が起こったんだ?

ぼくが彼女に押し倒されたとでもいうのか?

彼女はぼくの上で、嬉しそうにぼくの胸に擦り寄っている。

……どうやらそうらしい。

「ハルカ、大人しくするんだ。君は酔っ払っているんだから。」

「嫌よ。シュウの言うことなんか聞かない。」

負けたくないもの――彼女の呟きが聞こえて、ぼくは内心頭を抱える。

ああ、彼女の負けず嫌いがこんなところで出るなんて。

ぼくが彼女の性格について悩んでいるうちに、彼女は次の行動に出た。

ぼくに馬乗りになって、ぼくのパジャマのボタンを一つずつ外していく。

「ハルカ!?」

ぼくの驚きをよそに、彼女は顕わになったぼくの上半身を撫でた。

「っ!?」

彼女は一体何をする気なんだろう。

ぼくの胸に唇を近づけていく彼女を見ながら、ぼくは他人事のように考えていた。



一瞬の軽い痛みと、その後の柔らかな癒し。

彼女はぼくの胸や腹にキスマークを付けるのに夢中になっていた。

ぼくの肌を強く吸い上げた後に、そこを舌でぺろぺろと舐める。

まるで猫みたいに。

もう数え切れないくらい、ぼくの上半身には薔薇が散っていることだろう。

……いつもは薔薇を胸に抱くのは彼女なのに。

でも、彼女はいつもの彼女じゃない。

こちらを見たハルカの瞳には、妖しげな光が揺らめいていた。

ぼくの体が震えたのはその光のせいか、キスの痛みと舌の艶かしい動きのせいか、その両方か。

彼女の頭は、少しずつぼくの下半身に近づいているようだった。



彼女が下着ごと、ぼくのズボンをずり下げた時は、さすがに僕も慌てて身を起こした。

「なっ!?ハルカ!」

彼女はぼくの声も耳に入らないようで、そそり立つぼく自身にそっと触れた。

「っ!」

その瞬間、ぼくの体は電撃が走ったように反応した。

彼女が……自分からぼくに触れるなんて……。

驚くのはまだ早かった。

彼女は大きくなったぼく自身を躊躇うことなく口に含んだ。

彼女の熱い舌が絡みつく。

「う……くっ……!」

ぼくはかろうじて快楽に流されそうになる自分と戦っていた。

彼女は本当に美味しそうに、ぼく自身をしゃぶっている。

彼女の舌使いは淫靡で――上手かった。

「ハルカ……もうやめるんだ……!」

ぼくは彼女の頭を引き剥がそうとした。

でも、彼女はそれに抗って、さらにぼく自身を強く吸う。

まるで、ぼくが彼女の口に欲情をぶちまけるのを欲するかのように。

「ハルカ……!」

ぼくは彼女を無理やり引き剥がすと同時に、彼女の顔に白濁した欲望をはき出した。



「ハ、ハルカ……?」

ぼくは上がった息を整えながら、彼女に呼びかける。

彼女は自分の顔についたぼくの欲望を指で掬って舐めていた。

「ハルカ……ごめん……。」

情けなくなって、ぼくは彼女に謝る。

彼女はキョトンとして、何を言われたか分からないようだった。

「美味しいよ、シュウの味……。」

うっとりとして指を舐める。

でも、次の瞬間、泣きそうな顔になった。

「でも、シュウはわたしのこと退かそうとした。わたしはシュウに気持ち良くなってもらいたいだけなのに……。」

目に涙まで浮かべて悲しそうに言う。

ぼくはこの事態をどうするか、めまぐるしく頭を回転させていた。

ハルカは酒を飲むと、いつもの負けん気だけじゃなくて、絡み酒、笑い上戸、泣き上戸なんかの全ての酒乱の要素を抱え込むらしい。

感情の振り子が激しく動きすぎて、次の行動がまったく読めない。

でも、今は最初の頃よりは素直になっているらしい。

「ハルカはぼくを気持ち良くさせたいんだね?」

「うん!」

泣きそうだった顔は、次の瞬間には満面の笑顔に変わる。

「だったらハルカ、服を全部脱ぐんだ。」

「全部?でも……。」

「ぼくも脱ぐから。」

「だったらわたしも脱ぐ!」

素直なうちに、少しでも事態をこちらの有利になる方にもっていくのみ。



二人とも一糸纏わぬ姿になってから、ぼくは再び仰向けに転がる。

頭の後ろで手を組んで、ぼくは彼女を見上げた。

「さあ、ハルカ、ぼくを気持ち良くさせてごらん。」

「え……、でもどうやって?」

「それは君が考えるんだ。」

彼女は眉根を寄せて真剣に考えている。

それでも思いつかなかったらしく、涙目でこちらを見つめてきた。

「わかんないよ……お願いシュウ、教えて……。」

「ぼくは一度イってしまっているからね。それ相応のことをしないと反応しないよ。」

「シュウ、わたし、どうすればいい……?」

いつになく素直な彼女に、ぼくはどうすれば良いか教えてやった。




ぼくは先程に比べて若干硬くなくなったぼく自身に手をあてがう。

そして、ぼくの膝の上には彼女が。

「いいかい、ハルカ。ぼくは何もしないからね。君だけの力で、ぼくを気持ち良くさせるんだよ。」

「うん……。」

不安気に彼女がうなずく。

「じゃあ、降りておいで。」

ぼくのその言葉に、彼女はぼく自身に彼女の蕾を押し付けた。

「うっ……ああっ!」

彼女がぼくの上で艶を含んだ声を上げる。

ぼくは寝転んで、彼女の嬌態を見つめた。

彼女はぼくの言う通り、自分からぼく自身を受け入れようとしている。

前戯もしていないというのに、彼女の蕾は蜜で溢れかえっていた。

その滑りと自重で、彼女はぼく自身をくわえ込む。

「まだまだだね、ハルカ。もっと奥までぼくを挿れないと、ぼくはイカないよ。」

「うん……あっ!」

彼女は喘ぎ喘ぎ彼女の蕾にぼく自身を全て飲み込んだ。

「さあ次は動くんだ、ハルカ。」

ぼくの言葉に従って、彼女は腰を揺らす。

「っ……あっ……はっ……!」

彼女が自分一人で高まっていくのを見つめていると、何だか悪戯心が湧いてきた。

試しに一度彼女を突き上げてみる。

「ああっ!」

彼女は簡単に達してしまった。

ぼくの上に横たわって息を切らしている彼女に、ぼくは意地悪く言う。

「ぼくをイカせるんじゃなかったの、ハルカ?」

「う……負けないかも!」

彼女は再び起き上がって、腰を妖しく揺らし始める。

彼女の乱れた姿を見るのは楽しくてたまらない。

いつもはぼくが上にいるけれど、彼女の視点に立ってみるのもそう悪くない。

そう思うと、この時間が惜しくなる。

だから、ぼくが我慢できなくなるまで、彼女の嬌声を楽しもう。

何度か突き上げて、彼女だけを絶頂に追いやっている内に、ようやくぼく自身もたぎってきた。



「ハルカ……分かる?」

「うん、シュウがわたしの中で熱くて大きくなってる……。やっとシュウを気持ち良くさせることができたかも!」

上半身を起こして、ぼくは彼女の腰を抱える。

「じゃあ、ハルカ、最後の仕上げだ。ぼくをイカせてもらおうか。」

「うん!」

ぼくは彼女に合わせて律動を刻む。

ぼくと彼女が同時に果てたのは、それから間もなくのことだった。



それからは何度も交し合って、ぼく達が眠りについたのは明け方近くのことだった。

ハルカは終始感情が大きく動いて、ぼくを困らせたり喜ばせたり。

まあ、楽しかったからいいけどね。

ぼくは眠る彼女を抱きしめ目を閉じた。



「そんなの有り得ないかもー!」

彼女の絶叫でぼくは目を覚ました。

カーテンから差し込む光は、今がもう昼だということを示している。

「どうしたんだい、ハルカ?」

隣で頭を抱えているハルカに訊いてみると、彼女は一瞬こちらを見た後、真っ赤になって枕に顔をうずめてしまった。

ははあ、これは…。

「昨日のこと、どれくらい覚えている?」

「昨日のことなんて何も知らないかも!」

全部覚えているんだろう、一言一句間違いなく。

「昨日は大変だったけど、君はとても可愛かったよ。特に、ぼくの上で喘ぐ姿なんて――。」

「言わないでー!」

「このキスマークだって全部君が――。」

「そんなの全然覚えてないかもー!」



彼女が酒を飲むと大変なことになるというのがよく分かった。

今回も事故とはいえ、随分と被害が大きかったような気がする。

でも、いい思いも沢山させてもらったし。

また何かの拍子に酒を飲んでしまうことがあるかもしれないね、ハルカ。

 

 

 

 

 

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