わたし、負けない!
カーテンを閉め切った部屋――きっと外は月が綺麗だろう。
見覚えのある天井――壁と同じく白一色で、部屋の主の性格を表しているみたい。
身体の下には柔らかいシーツ――わたしの好きな匂いがする。
そして、わたしの目の前にはシュウの不敵な笑み。
そう、ここはシュウの部屋で――わたしはシュウに押し倒されていた。
どうしてこんな状況になってしまったのか。
わたし達はさっきまで勉強していたはず。
そう、あれは数日前――。
「あー、テスト最悪だったかもー!」
その日は中間テストの返却日で、沢山のテスト達が点数をお土産に帰ってきた。
そのお土産の数々は、わたしにとってはあまり嬉しくないもの。
「ああ、もっと勉強しておけば良かったー!」
「後で悔やむから、後悔先に立たずって言うんだよ。」
相変わらず嫌味な口調で、わたしに話しかけてきたヤツがいる。
そう、それは言わずと知れた――。
「シュウ!」
「君の声、廊下にまで響いてるよ。もう少し静かにしゃべってほしいものだね。」
「うう、テスト後でみんながへこんでるのに、その嫌味は健在ね……。さすがは学年トップ。」
言い返す気力もないわたしの言葉に、シュウは肩をすくめる。
「ぼくは後悔したくないから勉強してるだけさ。それより、君のテスト、君が言うほど悪くないと思うけど?」
シュウは机に散らばったテストの一枚を手に取って言った。
「ああもう!勝手に見ないでよ!」
わたしは急いでシュウの手から答案を奪い返す。あ、ちょっと破けた。
「ざっと見たところ、君のテストは全て平均点以上。十分学年上位だと思うけど?」
確かにシュウの言う通り、私のテストの点数自体はそう悪くない。でも――。
「……ったの。」
「え?」
「勝ちたかったの!シュウに!いつも負けっぱなしって悔しいじゃない!わたしはシュウにだけは負けたくないの!」
わたしに思わぬ言葉をぶつけられて、一瞬ぽかんとしたシュウは、次の瞬間には笑い出した。
「何がおかしいのよ!?」
「……いや、君がそんなことを考えていたなんてね。でも、ぼくに勝とうと思うなら、もう少し勉強しないとね。ぼくも君に負けたくないから。」
「うー、勝者の余裕って感じで悔しいかもー!」
こんな調子で、わたしはいつもシュウに勝てない。
絶対にシュウだけには負けたくないのに。
「……そうだ。なら、今度の週末、ぼくの家に勉強しに来るかい?」
シュウの意外な言葉にわたしは耳を疑った。
負けたくないと思う相手に一緒に勉強しようなんて、普通は言えないわよ。
「週末、両親が旅行に行くから家にはぼくしかいないんだ。誰にも気兼ねなく勉強できるよ。」
「よーし、その勉強合宿のるかも!」
そうして、わたしとシュウの勉強合宿は決行されたのだった。
そして、冒頭に至る。
「何で、わたしは、シュウに、ベッドの上で、身体を、押さえつけられてるのかなぁ?」
一句一句区切って言うわたしに、シュウは笑みを深くする。
「それを英語で言ってごらん。」
「ええと、Why……じゃなくて!放しなさいよ、シュウ!」
「さっきまでの勉強の成果を見てあげようと思ったのに。」
そう、さっきまでわたし達は勉強していた。
さっそく次のテストに向けて、五教科を始め、家庭科なんかの実技も含めて。
晩御飯は教科書に載ってたハンバーグだった。
シュウは結構料理も上手で――ってそうじゃない!
「勉強してたはずなのに、どうしてこうなってるのか説明してほしいかも!」
「もう遅いから勉強はおしまいにしようって言ったじゃないか。ちゃんと人の話は聞いた方がいいよ。」
「話をそらさないで!とにかく、その腕放しなさいよ!」
シュウに両手を押さえられているせいで、わたしはベッドに仰向けになったまま、会話するしかない。
シュウに見下ろされているせいか、負けたような気分になる――何か嫌かも。
「だいたい、ぼくが家においでと言った時点でこうなることは分かっていただろう?もしかして、分かっていなかったのかい?」
「分かるわけないかも!わたしは勉強しに来たんだから!」
「純粋なのは結構だけど、鈍感なのは直した方がいい。じゃないと襲われかねないよ。」
こんな風に――そう言って、彼はわたしの服をはだけて鎖骨に口付ける。
彼の唇に反応してピクリと身体が動くのは、やっぱり負けたようで良い気分はしない。
「君は、こんなことになるなんて知らなかったんだったら、ご両親には何といって外泊の許可を貰ったんだい?」
「そのままよ!友達の家で勉強合宿!」
彼は片手で私の両手を束ねて、もう片方の手でボタンを外していく。
「それ、処女の外泊の言い訳そのものだよ。まあ、君が合宿だって信じ込んでいたからご両親にもバレなかったんだろうけど。」
ボタンを全て外し終わった彼は、今度は下着を外した。
胸の頂が尖っているのは、外気に触れたせいだと信じておく。
「でも、君の処女はとっくの昔に奪われているんだけどね、このぼくに。」
そう言って、彼は紅い頂を口に含む。思わず声が漏れた。
「でも、君は何度抱いても穢れない。いつも――美しい。」
最後にぺロリと頂を舐めた後、彼はわたしの内股に手を伸ばす。
「静かだね、いつもの君ならもっと可愛い声で啼いてくれるのに。」
涙目で睨み付けるわたしに、彼は余裕そのものといった口調で返す。
くすくす笑った後、彼は押さえつけていたわたしの両手を解放した。
「逃げてもいいよ。君が望まないのなら。」
そう言って彼はわたしの上からも退く。
やっぱり悔しい。彼の手の平で踊らされているような気分になる。
「……逃げないわよ。」
「ふうん。あんなにぼくを睨み付けてたのに?」
「だって、シュウは『逃げてもいい』とは言ったけど、『追わない』とは言ってないでしょう?」
「おや、君にしては上出来だ。引っ掛け問題の勉強の成果が出たね。」
「だから逃げないの。シュウに捕まったら、わたしの完敗じゃない。」
そう、彼に捕まったら負け。
でも、わたしは自分から彼に捕まるのだろう。
「逃げる君を捕まえて無理矢理中に入るというのも一度はやってみたいけどね。君はいつも以上に泣いて、啼いてくれるだろうから。」
それが分かっているから逃げないのよ。負けたくないもの。
「負けん気が強くて、このぼくにも屈しない。それでこそ、ぼくのハルカ。」
そう言って彼はわたしの髪を撫でる。
気障で、自信家だけど、腹が立つほどわたしのことをよく理解している――。
「それでこそ、君のシュウ、だろう?君にふさわしいのはぼくだけだよ。」
「わたしの考えてること、勝手に読まないでほしいかも。」
わたしは彼を引き寄せ口付けた。
シュウと肌を合わせるのは嫌いじゃない。
彼もわたしがそう思っていることをよく理解っている。
やっぱり、負けたような気分になる。
でも、簡単に勝ちは譲らないわ。
だから、今は引き分けでいいかも!
オマケ
「今回も気持ち良かっただろう?」
「なっ!何言ってるのよ!?」
「身体は正直だよ。なんなら、もう一回やろうか?」
「え、ちょっとシュウ!やめっ……あっ……!」
やっぱり負けてるかも……。