わたし、負けない! 3 (ハルカver.)
最近、シュウが素っ気無い。
何がどう違うかと言われると上手く表現できないけど、どことなく余所余所しい。
わたしが近づくとちょっとだけだけど身を引くし、目をあんまり合わせないようにしてるし。
何より、抱いてくれなくなった。
もう一月近くシュウの肌を感じていない。
「シュウ……。」
わたしはシュウの袖を引く。
ここはシュウの部屋。
明日に迫った期末テストのため、昨日からシュウの家に泊まりこんで勉強している。
でも、集中できない。
シュウがわたしを避けているのが分かるから。
「何だい、ハルカ?」
シュウは教科書から目も上げずに答える。
前はちゃんとこっちを見てくれたのに。
「……何でもない。」
「そうか、なら話しかけないでくれ。」
前はこんなこと言わなかったのに。
わたしが沈んでいるのがシュウにも伝わっているのか、シュウはいつになくイライラしていた。
簡単な計算問題を何度も間違え、その度に何かに当たっている。
……わたしが傍にいない方がいいのかも。
そう思って、少し早いけど、お風呂に入ることにした。
浴槽に身を沈め、膝を抱える。
……シュウ、どうしちゃったんだろう。知らないうちにわたしが何かしたのかな。
額を膝に押し付ける。
涙がにじんできた。
わたしが部屋に戻ると、シュウもすぐにお風呂に行ってしまった。
……わたしを避けるように。
教科書を手に取ってみたけど、全く頭に入ってこない。
昨日からずっとシュウのことばかり考えている。
昨日は初めてシュウと違う部屋で寝た。
いつもは一緒に寝るのに。
シュウは勉強が忙しいからってわたしを追い出した。
……テスト前に詰め込んだって無駄だよって言ったのはシュウじゃない。
シュウは違う理由でわたしを追い出したかったんだ。
何だろう……、もしかして、わたしに飽きちゃったのかな。
お風呂で泣いたのに、また涙がにじんできた。
シュウはお風呂から上がると、ベッドに仰向けになって教科書を読み始めた。
わたしはテーブルに向かって計算問題を解いていたんだけど、さっきから手は止まっている。
シュウが気になって仕方が無い。
「シュウ……。」
名前を呼んでも返事をしてくれない。
……寂しい。
わたしもベッドに上がって、シュウの胸に頭を乗せた。
「勉強したらどうだい、ハルカ。テストは明日だよ。」
「……テスト前に詰め込んだって無駄なんでしょう?」
シュウは相変わらず素っ気無い。
前は胸に擦り寄ったら髪を撫でてくれたのに。
「シュウ、どうしてそんなこと言うの?」
「テスト前に勉強するのは当然だろう?」
「違う、そうじゃなくて……。」
前のシュウはそんなこと言わなかった。
どんなに忙しくても名前を呼んだらこっちを見てくれたし、わたしが傍にいたら抱きしめてくれた。
でも、今は違う。
「最近、シュウが冷たい気がする……。」
「ぼくはいつも通りだよ。おかしいのは君の方さ。」
教科書から目を離さずに言う。
「わたしが何かしたんだったら謝るから、だから――。」
「しつこいな。静かにしてくれないか。」
「シュウ……。」
また泣きたくなってきた。
シュウの胸に顔をうずめて思い切り泣けたら、どんなに幸せなんだろう。
前のシュウなら、きっと抱きしめて頭を撫でてくれた。
でも――。
「シュウ、寂しいよ……。」
わたしが何を言っても、シュウはもう返事をしてくれなくなった。
わたしをいないものとして扱っている。
シュウに振り向いてもらいたい一心で、わたしはシュウのパジャマのボタンに手を伸ばした。
「何をしているんだ、ハルカ?」
やっとシュウがこっちに興味を持ってくれた。
「抱いてよ、シュウ……。」
前はそう言ったら、必ず抱いてくれた――わたしから言うことはほとんど無かったけど。
でも――。
「今は忙しいんだ。大人しくしていてくれ。」
やっぱり、シュウはこちらに目を向けようともせず言い放つ。
「シュウ……。」
寂しくて悲しくてたまらない。
それでも、ボタンに手を掛けたら話しかけてきてくれたから、もっと進めばもっと話しかけてきてくれるかな。
わたしはシュウのボタンを一つずつ外していった。
ボタンを全部外して、シュウのパジャマをはだける。
シュウの上半身が顕わになった。
服を着てると分かりづらいけど、シュウの体にはしっかりと筋肉が付いている。
抱き合う度に思っていた。
ああ、シュウは男の人なんだなって。
自分とは違う肉付きの胸に唇を落とす。
それでもシュウは何も反応してくれない。
それはいくつキスマークを付けても同じだった。
だから、わたしはシュウの胸を口に含んでみた。
シュウがわたしにそうしたら、わたしはいつも声を上げていたから。
でも、シュウはわたしが期待していたような反応をしてくれなかった。
読んでいた教科書で目元を覆ってしまう。
……寝ちゃうのかな。
寂しいよ、シュウ……。
シュウが何も応えてくれないから、シュウを感じることができない。
少しでもシュウを感じたくて、含んだ胸を何度も舐めた。
シュウは相変わらず無反応。
舐めるだけじゃ足りなくて、服を全部脱いだわたしが体に密着していても。
背中に手を回して抱きしめてみても。
何も応えてくれなかった。
寂しくてたまらなくなって、思わずシュウの胸に涙が零れた。
それでも、シュウは顔を上げようともしてくれない。
でも、どうしてもシュウを感じていたくて、わたしはシュウの胸を舐め続けた。
そうやって舐めている内に、シュウの脚に絡ませていた自分の脚が何かに当たっているのに気づいた。
硬くて、尖っている。
もしかして……。
シュウのズボンを下ろすと、彼自身が頭をもたげ始めていた。
やっぱり、シュウはわたしに反応してくれてるんだ。
わたしは嬉しくなって、彼自身に口付けた。
そのまま、今度は彼自身を舐め続ける。
下から上へ、何度も何度も。
そうしていると、だんだんと彼自身も大きく高くなっていった。
「ハルカ……。」
シュウの声に、わたしはハッと顔を上げる。
やっと名前を呼んでくれた……。
シュウを見ると、目元に乗せていた本をどけて起き上がるところだった。
困ったように眉を寄せている。
「どうしてそう聞き分けがないんだ。」
「だって……!」
わたしはシュウの脱げかけた上着の裾を掴む。
そうしないと、またシュウが遠くに行っちゃいそうだったから。
「寂しかったの。シュウがわたしを見てくれなかったから……!」
止まっていた涙がまた零れる。
堪え切れなくて、シュウの胸に顔を押し付けた。
シュウの戸惑ったような気配が伝わってくる。
それでも、シュウはおずおずと私の頭を撫でてくれた。
ああ、元のシュウだ。
わたしはどうしようもなく嬉しくて、しばらく彼の胸で泣いていた。
「シュウ、どうしてわたしを抱いてくれないの……?」
少し落ち着いてから、顔を上げて訊いてみる。
シュウの困ったような顔はそのままだった。
「君が嫌がっていたから……。」
シュウの答えはわけの分からないものだった。
さっきまであんなに頼んでも抱いてくれなかったのは、わたしが嫌がったから?
どういうことだろう。
「君、一月近く前、ぼくが何度も求めたら泣いて嫌がっただろう?だから、君を泣かせないようにしようとしていたんだ。」
わたしが泣いて嫌がった?
だって、あれは――。
「おかしくなっちゃいそうだったから……。」
わたしはシュウの上着を強く引く。
「シュウと抱き合うのが怖くなったの。あんまりにも気持ち良すぎて、自分が自分でなくなっちゃいそうな気がしたから。」
シュウは静かにわたしの話を聞いてくれている。
「でも、シュウに抱いてもらえないのはもっと怖い。寂しくて悲しいの、シュウ……。」
新たな涙がにじむ。
シュウは目元を唇で拭ってくれた。
「ハルカ、ぼくも君を抱きたかった。でも、君に嫌われるのが怖くてずっと我慢していた。」
シュウはベッドの横の壁に寄りかかった。
「今君を抱いたら、ぼくは君が泣いて頼んでも、もうやめはしないだろう。」
それでもいいなら――。
「おいで、ハルカ。」
「うん!」
シュウの言葉に、わたしは彼に抱きついた。
シュウは言葉通り、際限なくわたしを求めた。
でも、わたしだってずっとシュウを感じたかった。
やっとシュウが応えてくれたんだもの。
「もっと、もっと抱いて、シュウ。」
わたしは一晩中彼を求め続けた。