おしゃべりマナフィ   「コツ」





 

 

マナフィは三人の中で一番早起きだ。

時々寝坊することもあるけど、いつもは一番に起きる。

今日の目覚めもマナフィが最初。

ハルカの腕から飛び出して、ベッドの上をちょこちょこ歩く。

行き先はもちろんいつもの場所。

「ハルカおきるー。ハルカー。」

そして、ハルカを起こすのはマナフィの朝一番の大仕事。

ほっぺをむにむにするけれど、それくらいじゃハルカは起きてくれない。

「マーナー!」

呼びかけるけど、すやすや寝息を立てるばかり。

マナフィは考える。

すぐにいいことを思い出した。

「ハルカすきー!」

ちゅっとハルカの唇にキスをする。

シュウがキスをしたら、ハルカはすぐに起きる。

「マナ……?」

でも、ハルカは眠ったままだった。

マナフィはさらに考える。

「わかったー。」

マナフィはシュウに比べて小さいから、キスも沢山しないとハルカは起きられないのだ。

マナフィはちゅっちゅっとハルカにキスをする。

唇だけじゃなくて、いつもシュウがしてるみたいに、ほっぺやまぶたにもする。

「マナ?」

でも、ハルカは起きない。

マナフィは考える。

シュウを真似して腕を組んで考える。

「わかったー!」

シュウみたいに長くないからいけないのだ。

ハルカが起きる時、いつもシュウのキスは長かった。

マナフィは小さいから、シュウよりいっぱいいっぱいキスをして、シュウよりずっとずっと長く唇を合わせていないと、ハルカは起きられないのだ。

「ハルカあいしてるー!」

ちゅーっとハルカに唇を合わせる。

ハルカのほっぺに手を当てるのはシュウの真似。

ハルカが早く起きるように。

でも、やっぱり起きない。

マナフィは唇を合わせたままで考える。

じゃあ、今度は顎に手を当てて――

「マナ?」

いきなりハルカが離れた。

でも、ハルカは眠ったまま。

「マナフィ、君は今何をしていたのかな……?」

「シュウ!」

マナフィは首だけ後ろを振り返る。

マナフィはシュウの両手に抱っこされていた。

「おはよー、シュウ!」

よいしょよいしょとマナフィはシュウの両手の中で体をひねろうとする。

そうすると、シュウがマナフィをシーツの上に降ろしてくれた。

「おはよう、マナフィ。……で、君は一体何をしていたんだい?」

シュウが微笑みながら訊いてくる。

マナフィはシュウの笑顔が好きだ。

ハルカの笑顔が一番だけど、シュウの笑顔も一番好きだ。

マナフィも笑顔で答える。

「ハルカおこそうとしてたー!」

「ハルカを?どうしてまたそんな方法で……?」

「シュウいっつもこーするー。そしたらハルカすぐおきるー。」

そこでマナフィはしょぼんとなる。

「でもハルカおきないー。マナフィ、ずっとキスしてるのにおきないー。」

俯いていると、シュウが優しく頭を撫でてくれた。

見上げると、満面の笑みを浮かべている。

「マナフィ、それにはね、コツがあるんだよ。」

「こつー?」

「これさえ出来るようになれば、すぐにハルカを起こせる凄い技のことさ。」

「コツー!すごいわざー!」

「そう、凄い技だ。」

頷くシュウにマナフィは目を輝かせる。

「シュウ、おしえてー!マナフィ、コツしたいー!」

「よしよし、教えてあげるからよく見てるんだよ。」

「マナー!」

シュウがハルカに手を伸ばす。

「まずはね、こうやって起き上がらせないといけないんだ。」

ハルカの腰と背中に手をやって、ハルカを起き上がらせる。

ちょうどシュウがハルカを抱き寄せたような格好だ。

「そして、後頭部に手を回す。」

シュウがハルカの腰に置いていた手をうしろあたまに当てる。

「それからキスをする。」

シュウはハルカに唇を合わせる。

うしろあたまに回した手をぐっと自分に引き寄せて、おまけに背中も引き寄せる。

そうしている内に、ハルカの体がピクリと動いた。

「ハルカおきたー?」

マナフィがシュウを見上げて尋ねると、シュウが閉じていた目を開けてちらりとマナフィを見た。

その目が何だか「まだまだ」と言っているみたいで、マナフィはワクワクしながらコツを見る。

ハルカの動きがさっきよりも大きくなったみたいだ。

目を閉じているけれど、「んー。」とかそういう声も聞こえる。

ここでシュウが動いた。

ハルカを今まで以上に強く抱きしめる。

「マナ……。」

ドキドキワクワク。

シュウがキスする角度を変えた瞬間、ハルカがぱちっと目を開けた。

「ハルカおきたー!」

マナフィは手を叩いて喜ぶ。

「分かったかい、マナフィ?」

シュウがハルカから唇を離してニッコリ笑ってくれた。

「わかったー!」

「でも、これはなかなか難しいからね。出来なかったり分からなくなったりしたら、いつでも聞いていいよ。」

「シュウ、ありがとー!」

「一体何の話してるのよ……。」

起きたばかりなのに、ハルカは何故か疲れたようにそう言った。






翌朝。

マナフィは昨日教わったコツの通りにハルカを起こそうとした。

「マナ……。」

しかし、何度キスしてもシュウみたいに上手くいかない。

「シュウ、コツおしえてー。」

呼びかけると、すぐにシュウは目を覚ました。

「よしよし、仕方ないなぁ。よく見てるんだよ。」

「マナー!」

優しいシュウは起こされても嫌な顔せず丁寧に教えてくれる。

次こそ、こんな風にハルカを起こそう。

そう決意するマナフィの横でシュウが微かに笑っていることにマナフィは気づかないままだった。

 

 

 

 

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