カナタちゃんは小さな恋の応援団
私はカナタ、ミナモシティのポロック屋の一人娘よ。
いつか両親のやってるポロック屋を継いで、ポケモンとポロックの素晴しさをみんなに分かってもらうのが私の夢。
そんなわけで、私は今ジョウト地方に来てるの。
あ、今、何がそんなわけでジョウト地方なんだって思ったでしょ?
実は、ジョウト地方でママの妹さんがポロック屋開いてるのよね。
ジョウトにはホウエンにない木の実もあるって聞いたから、世界一のポロック屋を目指してるこのカナタちゃんが行かないわけないでしょう!
珍しい木の実を値切り倒してホウエンに持って帰るのよ!……じゃなくて、まだ見ぬポロックを研究しに行くのよ!
そういえば、シンオウではポロックの他にポフィンっていうお菓子があるって聞いたわね。
いつか行ってみようっと。
でも、今はそんなことより――。
「おじさん、これだけ買ったんだから負けてよ!」
「お嬢ちゃん、これ以上は負けられないよ。こっちも商売なんだ。」
「いいでしょー、ねえ、負けてよー。」
ここはジョウト地方のとある町の果物屋さん。
大きな町の大きな果物屋さんだけあって品揃えがいい。
隣のブーピックと一緒に店番のおじさんにお願いする。
「お願いお願い、おじさーん。」
「……ええい!持ってけ、ドロボー!ついでにウタンの実も一つオマケにつけてやる!」
ずっと粘っていると、とうとうおじさんが根負けしたように叫んだ。
周りから拍手が巻き起こる。
「やったー!ありがとう、おじさん!」
ブーピックと一緒に飛び跳ねて喜ぶ。
「その代わり、またうちで買い物してくれよ。」
「うん、また値切ってあげるわ。」
「それは勘弁してほしいなぁ。」
苦笑するおじさんに手を振ってポロック屋に帰る。
「ただいまー!」
「カナタちゃん、お使いご苦労様。そんな大荷物持って帰るの大変だったでしょ?」
裏口から店に帰った私を出迎えてくれたこの人がママの妹さん。
ママとは違って小柄だけど、ポロック作りの腕はママにも負けてない。
「ううん、これでどんなポロックが作れるのかと思っただけで軽くなったわ。」
ホウエンでは見たことない木の実がここには沢山ある。
どんな味がして、どんなポロックが作れるんだろう。
ブーピックは気に入ってくれるかな?
まだ見ぬポロックにワクワクしてくる。
「カナタちゃん、買ってきた木の実使って作ってみる?今、お客さんが多いからその後になっちゃうけど。」
「うん!ジョウトではどんなポロックが作られてるのかしら!ちょっとお店見てくる!」
裏で作業中のおばさんと別れて、私は木の実ブレンダーの置いてある店先に向かった。
おばさんの言う通り、木の実ブレンダーは大盛況だった。
並んでる人もいたから、どうしてなのか聞いてみると、もうすぐこの町ではコンテストが開かれるらしい。
ポスターを見せてもらうと、リボンがとても可愛かった。
私も出ようかな、ブーピックに新ポロックを食べさせてあげて。
その参考にしようと思って、ブレンダーに向かってるお客さんを一人一人見て回った。
みんなコンテストを目指してるだけあって慣れた手つきだったけど、その中でも凄く上手い人がいた。
自分のポケモンの好みを知り尽くしてるんだってすぐに分かった。
だって、木の実を切る包丁に迷いが無いんだもの。
ママがこの見極めが一人前のポロック屋になる資格よって言ってた。
顔を見てみると、私とあんまり変わらないくらいの男の子。
緑色の髪と目をしていて、ちょっと見惚れるくらいの美少年だった。
彼のポケモンらしいロゼリアが椅子に乗って嬉しそうに彼の手元を見つめている。
私も一緒に手元を覗き込んでいると、彼の手が止まった。
「……何?」
え、私?
まな板から顔を上げると、彼がこちらを見ていた。
「ああ、私、ポロック屋を手伝ってるんだけど、あなたのポロック作りがとっても上手かったからつい。私カナタ。あなたは?」
「シュウ。こっちはロゼリア。」
「シュウ君ね。そして、そっちのロゼリアは見たところ渋いポロックが好きね。」
「どうして分かるんだい?」
シュウ君が驚いたように言う。
「分かるわよ、この薔薇のツヤは渋いポロックを食べさせないと出せないわ。しかも、これは相当調整が必要だったでしょうね。」
「……凄いな、一目でそこまで分かるなんて。」
「伊達に世界一のポロック屋を目指してるわけじゃないわ。」
シュウ君はその言葉に笑いながら、ポロック作りを再開した。
リズミカルに木の実を刻んでいく。
「その自分の夢に向かって真っ直ぐなところ、ぼくのライバルを思い出すよ。」
「シュウ君のライバル?」
これだけ凄いポロックを作れる人がライバルと認める人なんて、やっぱりその人も凄いポロック名人に違いない。
「ポロックにおかしな名前を付けて、食いしん坊なポケモンを連れているコーディネーターさ。」
クスクス笑いながら言う。
「本人も食べることが大好きで。ポケモン達が頑張ってくれたらまずはポケモンフーズという人だよ。」
「それじゃあ、その人もポケモン達も太ってるの?」
「いいや、あの有り余る元気で全部消費してるみたいだ。」
そこで気付いた、シュウ君の横でロゼリアが笑っていることに。
しかもただ笑ってるだけじゃなくて、ニヤニヤ笑いと見守るお姉さんみたいな笑いが混ざってる。
「……シュウ君、そのライバルって女の子?」
「そうだけど?」
「好きなの?」
あ、包丁が滑った。
「この包丁の動きは動揺ね!動揺するということはその子が好きなのね!」
「ちがっ……!」
「ロゼリアも頷いてるわよ。」
「ロゼリア!」
横で楽しそうに頷くロゼリアにシュウ君が顔を赤くする。
確定、シュウ君はライバルの女の子に恋してる。
「いいわぁ、ポロックが結ぶ二人の愛情……。」
「ロゼ〜。」
「だから、どうしてポロックがぼくのライバルと関係あるんだ……。」
ロゼリアとシュウ君の恋愛話に浸っていると、シュウ君が疲れたように呟いた。
木の実を切るのをやめて、持ち上げたまな板からブレンダーに木の実を移している。
「だって、聞かれてもないのにライバルのポロックの話始めたの、シュウ君じゃない。」
あ、まな板がブレンダーに落ちちゃった。
「それはカナタさんを見てライバルを思い出したからで……。」
「赤の他人のちょっと似てる所を見て相手を思い出すなんて相当なものよね。」
あ、まな板取ろうとしてブレンダーの角に頭ぶつけてる。
「シュウ君って顔はカッコいいのに面白いわね。」
「ロゼロゼ〜。」
「……。」
シュウ君は無言でまな板を取り出すと、ブレンダーのスイッチを入れた。
「ポロックを作るときは『おいしくな〜れ〜、おいしくな〜れ〜。』って念じながら作るといいのよ。」
言いながら私は結構前に同じことを言った相手を思い出していた。
ミナモシティの市場で出会った同い年のコーディネーター。
コンテストで勝負したとき、この子は凄いなって思った。
ピンチをチャンスに変える力、バトルしていても相手を思いやる心。
……ポロック作りはお世辞にも上手いとは言えなかったけど。
まあ、初めてだったんだから仕方ないか。
とにかく、明るくて元気な可愛い女の子。
トップコーディネーターを目指すのかって聞いた時、まだ分からないって言ってたな。
旅をして、色々なものに触れて、もっとよく考えたいって。
それはとても素敵なことだって思ったけど、やっぱりあの子にはトップコーディネーターになってほしい。
あんなにポケモン達と一緒に輝ける子なんだから。
そこまで考えた時、タイマーの音がした。
いつの間にかシュウ君のポロックが完成していた。
「ねえねえ、私も味見してみていい?」
ポロックを手に取って味見してるシュウ君に聞いてみる。
色といい、ツヤといい、最高のポロックなのは間違いなかった。
ポロック屋の本能が疼く。
「どうぞ。」
OKが出たから、ブレンダーの受け皿からポロックを一つ取って口に入れてみる。
「へえ!これは……。」
渋いだけじゃなくて、柔らかな甘味が渋みを中和してまろやかな味に仕上げてる。
でも、渋さが無くなってるわけじゃなくて、ちゃんと存在を主張している。
それを助けるのがアクセントの酸味と苦味。
違う味を少し入れることでメインを引き立てるっていうのは簡単なようでなかなか難しい。
少なすぎると味の存在自体感じられないし、多すぎると隠し味にならないどころかメインを打ち消してしまう。
シュウ君は手つきから予想していた以上に凄いポロック名人だった。
「おいしかったわ。うちの店で売りたいくらい。」
「すまないね。これはロゼリアだけのポロックなんだ。」
ロゼリアがシュウ君の手からポロックを受け取って食べている。
「やっぱり、ポロックっていいわね。ポケモンとコーディネーターの絆がよく分かるんだもの。」
「そうだね。」
シュウ君とロゼリアが一緒に頷く。
その顔はとっても嬉しそうだった。
「シュウ君とロゼリア見てたら、私のライバルのコーディネーターを思い出すわ。」
「男性かい?」
「残念でした、女の子よ。私はシュウ君みたいに色ボケしてないんだから。」
「色ボケってね……。」
また顔を赤くするシュウ君の横でロゼリアが笑顔で頷く。
「そうやってポケモンと嬉しそうにしてるの見たら、シュウ君と全然タイプが違うのにその子のこと思い出したの。」
「ふうん、どんなコーディネーターなんだい?」
「ええと、とっても元気で、いつも真っ直ぐで、いつでも全力で走ってるようなイメージで――そうそう、あんな感じ。」
私は店に走り込んできた赤いバンダナを頭にかぶった女の子を指差す。
……赤いバンダナ?
「すみません、このブレンダー貸してください!」
呆然としているこちらに目もくれず、手袋を脱ぎ捨て、置いてあった包丁を手に取る。
まな板がダダダダダンッ!と凄まじい音を立て始めた。
……ええと、人って噂をすると現れるものとは言うけど、現れた途端、片っ端から木の実を切っていく人の話は聞いたことないわね。
サイコロ大の様々な木の実がブレンダーに放り込まれる。
「木の実ブレンダー、スイッチオン!」
ブレンダーが凄まじいスピードで回転し始めた。
「そ、そんなに回転させると機械が壊れちゃう……。」
「でも早くしないとゴンベが!」
泣きそうな顔でブレンダーを見守っている赤バンダナの女の子。
シュウ君がその子に声をかけようとした時、異変は起きた。
その子の腰のモンスターボールからゴンベが飛び出してきたのだ。
「いやーっ!ゴンベが起きちゃったー!」
飛び出してきたゴンベは私達が見ている前で木の実やポロックを置いている棚に歩いていく。
「ダメよ、ゴンベ!戻って!」
モンスターボールから伸びる光を難なく避けるゴンベ。
ええと、ゴンベは大食いポケモンで、ここはポロック屋で、だから……。
私がとんでもない事態を頭に思い浮かべた時、奇跡の音が辺りに響いた。
木の実ブレンダーのタイマー音。
「やった、完成かも!」
その子が受け皿に落ちてきたピンク色のポロックを掴み取る。
「ゴンベ!ハルカデリシャス2よ!おなかいっぱい食べなさーいっ!」
風を切る全力投球ポロックに口を大きく開けるゴンベ。
次の瞬間には丸いおなかがボンッとふくらんで、ゴンベはすやすや寝息を立て始めた。
「ま、間に合ったぁ……。」
へなへなと床に崩れ落ちるハルカデリシャス2の作り主。
「ゴンベが迷惑掛ける前にポロック補充できて良かった……。」
「全く、自分のポケモンのポロックの残りを把握してないなんて、それでも君はコーディネーターなのかい?」
シュウ君?
「げっ、シュウ!何でここに!?」
「ここでポロックを作っていたからに決まってるだろう。君は人を押しのけてブレンダーを独占しておきながら、謝罪の言葉も無しかい?全く美しくないね、ハルカ。」
シュウ君がさっきとは打って変わって涼しげな口調で赤バンダナの女の子――ハルカを見下ろしながら言う。
言われたハルカはプイと顔を逸らした。
「わ、悪かったわね!」
「それで謝ってるつもりかい?君は謝り方も美しくない。何より――。」
シュウ君も座り込んだハルカに合わせて膝をつく。
「自分の怪我に気付かないなんて、一人旅をしているくせに体調管理に無頓着すぎる。」
「へっ?怪我?」
シュウ君がハルカの左手を取る。
人差し指にかなり大きな切り傷があった。
血が指を伝って床に落ちている。
「な、何で!?こんな怪我、さっきまで無かったのに!」
「君が包丁で切ったんだろう。慌てすぎだ。」
そう言って、シュウ君は何のためらいも無くハルカの指を口に含んだ。
「シュウ!?」
ハルカがわたわたと慌てている。
「血なんて汚いよ!放して!」
「……。」
ハルカを指を口に含んでいるため、喋れないシュウ君がハルカを真剣な目で見つめる。
「……ごめんなさい。」
ハルカがしょんぼりと俯いた。
シュウ君がそんなハルカの頭に手を置く。
そうやってハルカの頭を優しく撫でていた。
シュウ君がまた顔を上げたハルカをじっと見つめていると、ハルカはポツリポツリと話し始めた。
ゴンベがいつの間にかハルカデリシャス2を全部食べてしまったこと。
それはこの町に到着するかなり前で、しかも周りには町なんて一つも無かったからポロックを作れなかったこと。
ゴンベを一粒でおなかいっぱいにできるハルカデリシャス2が切れてしまったせいで、ポケモンフーズを始め、自分の食料まで食べられてしまったこと。
「そんなわけで、昨日から何も食べてないの……。」
ハルカが元気なく言う。
ポロックを作り終えて、張りつめていた気が緩んだのだろう、疲れが一気に出ていているみたいだった。
シュウ君はそんなハルカをじっと見つめていたけど、何を考えたのか自分がさっき作ったポロックに手を伸ばした。
お皿ごとハルカに差し出す。
「え……くれるの?」
頷くシュウ君。
「こんな物で良ければって……シュウの作ったポロックだよ?貰えないよ、シュウのポケモン達も楽しみにしてるだろうし……。」
そこでシュウ君、軽く一睨み。
「いいからって……ホントにいいの?」
今度はふと目を細める。
「ホントは食べたいくせに遠慮するなんて美しくないって言いたいんでしょ、分かってるかも。」
うわ、この二人通じ合い過ぎ。
感心半分、呆れ半分で見ていると、迷っていたハルカがようやくポロックに手を伸ばした。
シュウ君が作ったポロックを一つ摘んで口に持っていく。
「おいしい……。」
花がほころぶように笑う。
そうやってハルカが一つ、また一つと口に入れる度、シュウ君は嬉しそうに笑っていた。
「いいわね、ポロックが繋ぐ二人の愛情……。」
「ロゼ〜。」
「なっ、なななななっ!?」
ずっと横で見学していた私とロゼリアに全く気付いていなかったハルカが驚く。
シュウ君も目を大きく見開いていた。
「カ、カナタ!?どうしてジョウトに!?」
「ちょっとポロックの研究にね。それより、また会えて嬉しいわ。」
ハルカの顔がパッと輝く。
「うん!カナタ、久しぶり!元気だった?」
「元気よ。ハルカは昨日から何も食べてない上に包丁で指切っちゃって大変ね。」
しゃがんで視線を合わせてから笑顔で挨拶する。
「でも、優しい”ライバル”が手当てしてくれた上にポロックまでくれて良かったわね。」
「え、どうしてシュウがわたしのライバルだって知ってるの?」
「ハルカデリシャス2とかいう超個性的なポロックの名前、大食いポケモンゴンベ、本人も食いしん坊、加えてハルカに出会ってからの態度……。」
ゆっくりシュウ君に向き直ると、シュウ君は無表情であさっての方向を眺めていた。
しかし、その頬を伝う一筋の汗はさっきまで話していたライバルの正体がハルカだと白状しているも同じ。
「ロゼリアだけのポロックだからとか言ってたクセに、ハルカにはいくらでも食べさせてあげるのねー。」
「ロゼロッゼ〜。」
「今作ったポロックが無くなったら、ポロックケースに入ってるのも食べさせてあげるんでしょー?」
「ロゼー?」
ロゼリアと一緒にはやし立てれば立てるほど汗が流れていく。
「ねえ、カナタ!カナタはこの町のコンテストに出るんでしょ?」
ハルカがシュウ君をからかってる私に話しかけてきた。
「そうね、どうしようかな。」
「一緒に出ようよ!わたし、トップコーディネーターになるの!カナタに自分がどれだけ夢に近づけたか見てほしいの!」
トップコーディネーターが夢。
「そう、目標を決めたのね。」
前に会った時は悩んでいたハルカが今はトップコーディネーター目指して一直線に走っている。
その勢いで腹ペコゴンベ連れてポロック屋に来られると困るんだけど。
まあ、久しぶりに会えたからいいか。
「……ライバルのお願いなら仕方ないな。」
「じゃあ、カナタも出場ね!シュウとカナタが出るなんて、今回のコンテスト張り切っちゃうかもー!」
「そうそう、そのシュウ君についてハルカに聞きたいんだけど。」
「何?」
「ハルカ、いつまでシュウ君に”手当て”してもらってるつもり?」
「えっ!?」
ハルカがそこで改めて気付いたようにシュウ君を見る。
くわえられた自分の指を見て、顔を真っ赤に染めた。
「も、もういいかも!シュウ、ありがとっ!」
半ば叫んでハルカはシュウ君の口から指を引っこ抜く。
「わーん、まだ血が止まってないー!」
でも、ハルカの切り傷は結構大きかったから、血は少しだけどまだ垂れていた。
ハルカは大急ぎで指をくわえる。
「ハルカ……。」
「ふえ?」
私は無言でハルカの指と、顔を逸らしながら必死で無表情を保っているシュウ君を交互に示した。
首を傾げて私の指差すものを見ていたハルカがある時点でボンッと真っ赤になる。
「ふぃ、ふぃふぁうふぁふぉ!ふぉふぇふぁ!」
「はいはい、私は何も言ってないわよー。何が違うのかわざわざ説明してくれるのー?」
「うう……。」
気付いてしまったけど、まだ血が出てるから指を離すわけにもいかなくて、涙目で指をくわえてるハルカ。
「よしよし、ハルカ、包帯巻いてあげるから、まず手を洗ってきなさい。洗面所はあっちにあるから。奥で救急箱用意して待ってるわ。」
あんまりからかうのも可哀相だから、逃げ道を作ってあげると、ハルカは一目散に洗面所に逃げていった。
その後姿をロゼリアと一緒にクスクス笑いながら見送る。
「二人とも初々しいわね、間接キスで照れるなんて。」
ニヤリと笑ってシュウ君を見ると、ポーカーフェイスが崩れて真っ赤に染まった目元を手で覆っていた。
「え、カナタ、もうホウエンに帰っちゃうの?」
数日後、コンテストも終わってハルカの怪我も塞がり始めた頃、それを告げるとハルカが残念そうに言った。
「いい木の実も沢山手に入ったし、一度家でポロック作ってみようと思って。」
やっぱり、家で作るポロックが一番おいしく出来るような気がする。
「そっか……。」
「シュウ君がすぐに旅立って、私もいなくなっちゃうから寂しい?」
「そ、そんなことないかも!」
ハルカは顔を真っ赤に染めて叫ぶ。
シュウ君はコンテストが終わった直後、逃げるようにこの町から旅立った。
いや、「逃げるように」じゃなくて、本当に逃げたんだろう、ハルカから。
二人とも一次は通過できたけど、二次はガタガタだった。
一回戦で当たっちゃったのだ、この二人は。
お互いの顔を見るとあの事件を思い出すらしく、控え室でも顔を合わせなかったのに、いきなり相手と正面から向き合って。
後は予想通りの展開。
緊張しておかしな方向にテンションが上がっちゃったせいで、負けた方は自爆に近い形だし、勝った方は勝った方で精神的に疲れ切って次の試合で敗退。
おかげで私が可愛いリボンGETできたけど、本気の二人も見てみたかった。
だって、この二人のポケモン、毛づやが全然違うんだもの。
きっとバトルも凄いに違いない。
「ねえ、ハルカ。」
私はハルカに一枚のメモ用紙を渡す。
「これ、私の連絡先。寂しくなったら電話して。」
「カナタ……。」
じーんときてるらしいハルカの頭を撫でる。
「それから、ハルカのライバルの話も聞きたいな。」
「シュ、シュウの話なんてしないかも!」
「あらー?私はシュウ君なんて一言も言ってないわよ。ジョウトで新たに出来るライバルの話が聞きたいって思っただけなのに。」
私の言葉に真っ赤になった顔を隠すハルカ。
他人の恋愛話ってどうしてこんなに面白いのかしらね。
「ま、何にしても連絡ちょうだい。ポロックのレシピも交換したいし。」
「うん!絶対電話するかも!」
ハルカは切り替えが早い。
さっきまで恥ずかしがってこっちを見ようとしなかったくせに、今ではニコニコ笑っている。
「じゃあ、頑張って。応援してるから。」
「うん!ありがとう、カナタ!」
ホウエンに向かって出発する私の背中にハルカが手を振ってくれる。
私が何を頑張れと応援してるのか分かっていないに違いない。
「シュウ君のこと……頑張りなよ、ハルカ。」
一度だけ後ろを向いて手を振りながら、私はハルカが恥ずかしがらなくていいように小さな声で呟いた。