快楽の部屋
小さな明かり取りの窓から西日が差し込んでくる。
彼女の顔が赤いのはそれに当たっているせいか、それともぼくのせいなのか。
ぼくとしては、後者と信じたいところだけど。
「ハルカ、いい加減認めたらどうだい?」
ぼくは目隠しをされ、それでも恐怖より快楽に喘ぐハルカに口付けた。
今のような状況に至ったそもそもの原因は、思い出してみたところではっきりしない。
多分、大したことない理由なんだろう。
重要なのは、彼女がぼくとの口喧嘩の中で「大嫌い」と言ったことだ。
彼女とぼくは学校で顔を合わせると、毎日と言って良いほど口喧嘩をしている。
ぼくにとっては、彼女との口喧嘩も一種のコミュニケーションだから、いつもわざと彼女を煽っているのだけれど。
彼女は、その中でぼくに大嫌いと言った。
そう言われるのだって日常茶飯事で――ぼくが彼女に「美しくないね。」と言うのと同じくらいの数なんだろうけど。
だから、いつもはそれを受け流す。
でも、今日は違った。
悪戯心とでも言うんだろうか、彼女に彼女自身がぼくを好いているというのを認めさせたくなったんだ。
大嫌いなぼくに、ぼくをもっと嫌いになるようなことをされて――それでもぼくを嫌いになれないということを思い知らせたくなった。
だから、今こうして両手を縛ったハルカを無理やり抱こうとしている。
口喧嘩の後、この小さな部屋にハルカを閉じ込めた。
もうほとんどの生徒が下校した後だから、誰にも見られなかったのは幸運かもしれない。
この部屋は用具室のようで、今はもう使われていない物がごちゃごちゃと置いてあった。
その中でもひときわ大きな古いソファーに彼女を放り投げた。
「い、いきなり何するのよ!」
怒鳴る彼女に、ぼくは不敵な笑みを浮かべてみせる。
「ちょっとしたことを試してみたくなってね。」
言いながら、ぼくはネクタイを外した。
そして、ソファーの上で目を白黒させているハルカを押さえつけて、たった今外したネクタイで後ろ手に縛ってしまう。
「なっ!?ちょっと放しなさいよ、シュウ!」
「放すくらいなら最初から縛ったりしないよ、ハルカ。」
ポケットから取り出した大きめのハンカチで彼女の目を隠した。
「好きだよ、ハルカ。」
「こんなことしておいて好きだなんて、図々しいにも程があるかも!」
自由と視界を奪われているのに、相変わらずの強気だ。
思わず笑いが漏れてしまった。
「何がおかしいのよ!シュウなんて大っ嫌い!」
ああ、またぼくのことを嫌いだと言った。
でも、君はそれを自分で否定せざるを得ないんだよ。
笑いを零れるままにして、ぼくは彼女の服に手を伸ばした。
彼女をソファーに腰掛けさせるようにして、彼女の服を脱がせていく。
こうすれば手が使えない彼女をぼくの体で押さえつけるのは簡単だし、服も脱がせやすい。
ブラウスのボタンを全部外して、縛った両手のところまで下げてしまう。
彼女が微かに身を震わせたのは寒さのせいか、それともこれから予想される行為のせいか。
「シュウ!今すぐやめて!」
こんな状況になっても、彼女は抗うことをやめない。
「嫌だね。」
そう言って、ぼくは彼女の肌を強く吸う。
彼女の胸に薔薇の花弁が舞った。
「……っ。」
胸の覆いも取り去って、彼女の柔らかな膨らみに触れる。
彼女の上気した頬と喘ぎは、それを決して不快なものだとは告げていないのに。
「嫌い……、シュウなんて大嫌い……。」
彼女は一向にそれを認めようとしない。
「いい加減認めたらどうだい?気持ちいいって。ぼくにこうされるのが好きだって。」
彼女の膨らみの紅い頂を指で弾く。
「あっ!」
そんな風に艶を含んだ声を上げるのに、彼女は強情を張ることをやめない。
それならそれでいいけどね、ぼくはぼくのやり方で彼女に認めさせるだけ。
ぼくは彼女の下半身を覆う衣服に手を掛けた。
「うっ……ああっ!」
部屋に彼女の声が響く。
それと、子犬がミルクを舐めるような音が。
ぼくは彼女の脚を広げさせて、彼女を味わっていた。
どれだけ舌で掬い取っても、蜜は尽きることなく溢れてくる。
彼女の顔を見上げると、目隠しをしていても隠し切れない快楽に染まっていた。
「気持ちいいだろう、ハルカ?」
水音を一段と大きくさせて、彼女を舌で弾く。
「あっ……!」
彼女の体は全身で反応を返す。
「やめて……、シュウ、お願い……。」
なのに、彼女自身は頑ななまま。
……まったくもって強情な。
ぼくは少し苛立って、彼女の中に指を挿れた。
「うっ……くっ……!」
彼女は涙声で、それでも声を上げまいと唇を噛み締める。
「やめなよ、血が出るよ。」
それでも彼女は無言のまま、唇に歯を立てる。
ぼくは彼女の中の指をもう一本増やし掻きまわした。
「ああっ!」
ぼくの思惑通り、彼女は堪え切れず声を上げる。
彼女の蜜が指を伝い、手の平に零れてくる。
彼女の限界が近いらしい。
でも、ぼくもそれは同じ。
彼女が――ハルカが欲しくてたまらない。
「うっ……ああっ!」
引こうとするハルカの腰を捕らえ、ぼく自身を挿れる。
それと前後して、彼女の両手と視界を解放した。
「シュウなんて……大……嫌い……。」
彼女は喘ぎながらも最後の抵抗をする。
でもね、ハルカ。
ぼくの背中に手を回してシャツを力いっぱい握り締めながら言っても説得力ないよ。
「……いい加減意地張るのやめて、一緒にイこう?」
彼女の中は熱くて狭い。
ぼくはもっと彼女を感じたくて、彼女を突き上げる。
「あっ!ああっ!」
ぼくの動きに合わせて、彼女の体が揺れる。
彼女がひときわ大きな声を上げると共に、ぼくは彼女の中で自分が弾けるのを感じた。
ハルカが目を覚ましたのは、ちょうど赤い日の欠片が消える直前だった。
ソファーに寝かせた彼女に、隣に腰掛け彼女の髪を梳いていたぼくは笑いかける。
「おはよう、ハルカ。」
「……シュウ?」
焦点の合わない瞳でぼくを見上げた彼女は、次の瞬間ガバリと身を起こした。
「何するのよ、シュウ!」
「何って……気持ちよかっただろう?」
うっと詰まって黙り込んでしまったハルカに、ぼくはもう一度笑いかける。
今のぼくは本当に楽しそうに笑っているんだろうな――そう思いながら。
「ぼくのことが好きだろう、ハルカ。」
「……嫌いじゃないかも。」
そう言いながら抱きついてきたハルカに腕を回しながら、ぼくは思う。
今回は――まあこれでいいか。
でも、次は手加減しないよ。
ぼくのことを好きだと言うまで、ぼくは手を緩めるつもりはないからね。
またぼくに火をつけたときは覚悟しておきなよ。
彼女を抱きしめた時、日の光は完全に夜に喰われた。