返事してよ
ジョウト地方のとある町のコンテスト会場で大勢のファンに囲まれてる君を見つけた。
新人らしいコーディネーターに笑顔で握手している君は本当に自然で。
……もうこんなことは慣れっこなのか。
当然かもしれない、君はホウエンでもカントーでもグランドフェスティバル本選に出場したほどのコーディネーターなんだから。
戦績で言ってもぼくに劣らない。
それほどまでに君は成長した、してしまった。
君が強くなることをライバルのぼくは望んでいたはずなのに。
胸のどこかがポッカリ空いたみたいだ。
「ハルカ。」
こちらに気付いてさえくれない。
「ハルカ。」
近づいてもう少し大きな声で呼びかけても、君は目の前のファンに夢中で。
大きな薔薇の花束を受け取ろうとしていた。
「……美しくないね。」
「何ですって、シュウ!」
小さく呟いた途端、今までどんなに呼んでも振り向いてくれなかった君がこちらを睨みつけてきた。
「……気付いてなかったんじゃないのかい?」
「今気付いたのよ!どうして陰口みたいにそんなこと言われなくちゃいけないの!」
「もちろん、君が美しくないからさ。」
ぼくを見てくれたことが嬉しくてたまらない。
自然と笑顔になる。
でも、君はぼくがいつも浮かべている皮肉だと受け取ったみたいだね。
ファンそっちのけでぼくの目の前で唸っている。
「美しくない君にはそんな大きな花束なんて似合わない。」
持っていた一輪の薔薇を差し出す。
「今の君にはこれで十分。」
……どうして君はそんな信じられないものを見るような目でぼくを見るのかな?
「それ……わたしに?」
「美しくない君に。もっと美しくなってほしいと願いを込めて。」
「その美しくないっていうのは腹立つけど、それでも嬉しいかも!」
紅い薔薇を両手で持って喜ぶ君。
ああ、やっぱり、君には花束よりも一輪の薔薇が似合う。
それがぼくの贈った薔薇ならなおさら。
「それじゃ、ぼくはそろそろ行くよ。」
背を向けようとすると、君の手が服を掴んだ。
さっきの笑顔から一転、寂しそうな目をしている。
「もう行くの?久しぶりに会えたのに。」
「ファンを待たせてるんだろう?ファンとの会話を邪魔するわけにはいかないよ。」
今まさに思いっきり邪魔したような気もするけれど。
「またね、ハルカ。」
今度はファンがいない時に出会いたいものだね。
「うん!またね、シュウ!」
そんな風にすぐに返事が欲しいから。
ぼくは今よりも美しくなった君に出会うため、次の町へ向けて旅立った。