平安恋物語裏絵巻

 

 

 

 

 

 

 

「今日の練習はこれまで!みんな、お疲れ様!」

体育館に総監督のカナタの声が響いた。

スタッフの生徒達も一礼して、各々帰り支度を始める。

舞台に立っていたシュウとハルカも力を抜いた。

「ふー、今日も疲れたかも。」

「今日の練習もハードだったからね。」

シュウは烏帽子を外した。

「ハルカ!シュウ!」

カナタが舞台の下まで駆け寄ってきた。

「疲れてるところ悪いんだけど、これから学園祭実行委員会と打ち合わせしなきゃいけないのよ。だから、二人に体育館の施錠頼める?」

「うん、いいよ。」

ハルカはカナタから体育館の鍵を受け取った。

「じゃあ、また明日ね!」

カナタは風のように駆け去っていった。

いつの間にか、他の生徒も帰ってしまって、体育館にいるのは二人だけになっていた。

「じゃあ、ぼく達も着替えようか。」

シュウはハルカの手を引く。

「う、うん……。」

ハルカはここで気付くべきだった。

シュウが行こうとしている方向は更衣室とは全く違うことに。





「シュウ、どうして、着替えるのに体育倉庫なの?」

十二単姿のハルカは直衣姿のシュウに問いかける。

バスケットボールやテニスラケットのある空間と二人の格好はミスマッチもいいところだった。

「だって、更衣室の床は固いだろう?」

シュウは倉庫の扉を閉める。

ハルカを振り返ったシュウの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

「なっ!まさか……!」

ハルカの脳裏に、いつか体育倉庫に連れ込まれた記憶が甦る。

「そう、そのまさか。」

その時のように、シュウはハルカをマットに組み敷いた。

「ちょ、ちょっと待って!衣装に皺が寄っちゃう!」

「君が抵抗せずにぼくに抱かれるなら、そんなに皺は寄らないよ。」

シュウは十二単を纏めてある紐に手を伸ばす。

今回の劇の衣装は凝っていて、平安時代をそのまま再現した作りになっている。

十二単は本当に十二枚着ているわけではないが、着込むのは大変なのだ。

逆に、脱がすときは紐を一本解くだけで良い。

まさに、今のシュウにはうってつけな服だった。

しかし、ハルカには不運この上ない服である。

「そんな無茶な理屈で人を押し倒さないでよ!」

その手を必死で押さえて、何とか抵抗する。

シュウの顔から不敵な笑みが消え、真剣な表情になった。

「姫、どうか私と結婚してください。」

唐突に出た劇の台詞。

その台詞に、ハルカは反射的に答えを返す。

「駄目です……私と貴方の家は敵同士。私達は結ばれてはいけないのです……。」

「じゃあ、無理やり襲うからいいよ。」

油断していたハルカの手を払い、シュウは十二単を纏めていた紐を一気に引き抜いた。

十二単がはだけ、ハルカの体が顕わになる。

「台詞違うじゃない!」

何とか胸元で着物を押さえながら、ハルカは叫ぶ。

「だって、ぼく達の仲は誰にも邪魔されてないからね。」

ハルカは十二単の下には何も付けていない。

着物を着るときは下着をつけないというのが本来の着方であるが、カナタのこだわりようはそこまで徹底していた。

「そろそろ抵抗するのやめたら?」

シュウは胸元を押さえるハルカの手を剥ぎ取った。





シュウが唇を落とすと、その度にハルカの体は揺れる。

十二単をはだけ、ハルカは錦に埋もれるようにして喘いでいた。

胸にいくつかの薔薇の花弁を散らした後、シュウはふと思いついてハルカの首筋に歯を立てた。

「っ!」

皮膚が破れる前に歯を離し、首筋についた歯型を優しく舐める。

「な、何するのよ……。」

上がった息をなだめながら、ハルカが問いかける。

「十二単は派手だから、キスマークが目立たないだろう?」

だから、目立つような印を刻んでおこうと思ってね。

シュウの答えにハルカは眉根を寄せる。

「シュウのバカ……。」

「何とでも。」

シュウはまたハルカの胸に口付けた。





「ハルカ、少し早いけど、もう君の中に入っていいかい?」

シュウが直衣を着崩して言う。

「なっ!もう……?」

「そう、もう我慢できない。」

今日の君は脱げかけた十二単と相まって、とても扇情的だからね。

シュウは赤く顔を染めたハルカを抱きしめる。

「じゃあ、いくよ、ハルカ……。」

その言葉と共に、シュウはハルカを貫いた。





「ふっ……あっ……はあっ!」

シュウの刻む律動はハルカを翻弄する。

ハルカに覆いかぶさっているシュウは彼女の髪を撫でた。

「綺麗だよ、ハルカ……。」

「なんか……悔しいかも……。」

抵抗していたはずなのに流されている自分が。

シュウの言葉に悦んでいる自分が。

そんなハルカにシュウは微笑む。

「可愛いね、ハルカ。」

シュウはハルカを抱きしめ、共に高みを目指した。





ハルカは十二単に包まれるようにして寝転んでいた。

シュウは隣に腰掛け、ハルカの頬を撫でている。

「シュウ……。」

とろりとした目でハルカがシュウの顔を見上げる。

「どうしたんだい?」

その目をシュウは見返した。

「舞姫と貴公子もこんな風に幸せになれたのかな?」

ハルカの言葉にシュウは目を見開く。

だが、次の瞬間には満足げな笑顔を浮かべた。

「あの二人より、ぼく達の方が何倍も幸せだよ。」

だって、君は愛の言葉だけでなく、こんなに可愛いことも言ってくれるんだからね。

シュウはハルカの額に唇を落とした。

 

 

 

 

 

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