美味しいチョコレートの食べ方

 

 

 

 

 





「シュウって何しても決まるわよねー。」

「……?」

ハルカがそう言ってきたのは、ぼくがチョコレートをくわえた時だった。





「……どういう意味だい?」

口にチョコレートを入れてしまってから問う。

「そのままの意味よ。シュウは絵になるなってそれだけ。」

ハルカはこちらを眺めながら答えになっていない答えを言う。





ここはとある森の中のちょっとした岩場。

ぼくとハルカは岩に腰掛け休憩していた。

今、ぼく達は二人で旅をしている。

目的は……まあ色々。

途中の町でコンテストに出たり、寄り道している内に、二人とも15歳になった。

まあ、急ぐ旅じゃないからいいんだけど。

今はそれより――。

「それじゃあ分からないんだけど。」

ハルカに再び問いかける。

「んー、シュウは何してても格好いいなって思ったの。」

「はっ!?」

思わず持っていた板チョコを落としそうになる。

格好いいなんてずっと言われ続けてきたから閉口してたんだけど、ハルカに言われるのは別。

思わず顔が赤くなる。

「あー!シュウ、照れてるー!」

ハルカが嬉しそうに言う。

「そ、そんなことより!何でいきなり?しかもチョコレートを食べてる時に。」

ぼくは何とか誤魔化そうと言葉を繋げる。

「だからよ。シュウ、もう一度、板チョコを食べてみてよ。」

「あ、ああ。」

ぼくはハルカの言う通り、少し銀紙を剥いだ板チョコを口元に持っていく。

端をくわえてパキンと折り取り、そのまま口の中へ。

「これがどうかしたのかい?」

「うん、意外性があっていいなって。」

「はっ?」

ますます分からない。

「シュウって、板チョコなんていったら、手で一口サイズに折って食べてそうなイメージがあったのよ。なのに、直接口を付けて食べるんだもん。」

「普通の食べ方だと思うけど……。」

「そう、普通よ。でも、格好いいかも。」

ハルカがにっこりと笑う。

どこが格好いいのか自分では分からないけど、ハルカがぼくを褒めてくれてるから、これはこれでいい。

幸せな気分になれる。

「でも、シュウがチョコレートを食べること自体意外かも。シュウってブラックコーヒーってイメージだもん。」

「君ね……。」

ハルカはぼくを一体何だと思っているのか。

「本当に美味しいコーヒーならブラックで飲んだ方が風味を殺さず飲めるんだよ。別に、甘い物が嫌いだから砂糖を入れないわけじゃない。」

「そうなんだー。シュウってばどんなコーヒーもそのまま飲んじゃうから、甘い物が苦手なんだと思ってた。」

君が砂糖とミルクを入れすぎなんだと思うよ。

この間なんて、コーヒー一杯に砂糖とミルクを3つずつ入れてたじゃないか。

「覚えてないかい?ぼくはマボロシ島でもチイラの実を食べていただろう?」

「ああ、そういえば!」

ハルカがポンと手を打つ。

あの実はとても甘くて美味しかった……後で辛くなったけど。

「でも、シュウの食べてるチョコレート、ビターよね。やっぱり苦い方が好きなんじゃないの?」

「そりゃいくら甘い物が食べられるからって、一度にミルクチョコレートを一枚も食べたら多すぎるだろう?」

「わたしなら何枚でもいけるかも!」

君と一緒にしないでほしいね。

いくら疲労回復に甘い物がいいからって、そんなに疲れていないよ。

ぼくはまた板チョコを口に含む。

「やっぱり意外。シュウがワイルドに見える。」

「ワイルドかどうかはともかく、こっちの方が食べやすいからね。手も汚れないし。」

ハルカはぼくがチョコレートを食べる姿をじっと眺めていた。





「わたしも少し食べたいかも。」

ハルカがそう言ってきたのは、ぼくがチョコレートを半分ほど食べ終わった時だった。

「どうぞ。」

ぼくはくわえたチョコレートをそのままに、手に持った半分を差し出す。

「そんなに沢山いらないわよ。」

ハルカは立ち上がり、岩に座ったぼくの傍まで歩いてくる。

「こっちで十分。」

ハルカはぼくのくわえたチョコレートの端を歯で挟む。

その唇がぼくに触れる寸前、パキリと音を立てて、ハルカはチョコレートを折り取った。

「やっぱりちょっと苦いかも。」

ハルカは口に含んだチョコレートを吟味して言う。

ぼくは口元に残ったチョコレートを舐め取った。

「……誘ってるのかい、ハルカ?」

「シュウはどう思う?」

ハルカは感情の読めない笑みを浮かべる。

「……これが多すぎでも、この半分なら食べられるだろう?」

ぼくはまた一欠片チョコレートをくわえ、ハルカを待つ。

「それならいいかも。」

ハルカはぼくの肩に手を置き、チョコレートをついばむ。

ぼくはチョコレートごと、ハルカの唇を飲み込んだ。





「やっぱりビターは苦かったかもー。」

ゆっくりチョコレートを食べ終わり、ぼく達は水辺に来ていた。

お互い、口の周りがチョコレートでベタベタだったからね。

「それなら今度はミルクチョコにしようか?」

ぼくは口に付いた水を拭って言う。

「シュウ、さっきミルクチョコは甘すぎるって言ったじゃない。」

「一人で全部食べるわけじゃないし……。」

口元を拭いているハルカに近づく。

「君の唇の方がずっと甘いからね。」

ぼくは微かにチョコレートの香るハルカに口付けた。

 

 

 

 

 

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