赤バンダナちゃん
昔々、あるところに赤いバンダナを頭にかぶった子がいました。
その子は皆から赤バンダナちゃんと呼ばれ親しまれていました。
ある日のことです。
「ねぇ、赤バンダナちゃん。森の中に住んでるおばあちゃんの所にお見舞いに行ってくれないかな?」
赤バンダナちゃんよりも背が低くて眼鏡をかけたお母さんが、赤バンダナちゃんにおつかいを頼みました。
「別にいいけど。」
赤バンダナちゃんが引き受けてくれたので、お母さんは赤バンダナちゃんにバスケットを手渡しました。
「この中にはパンと葡萄ジュースが入ってるから、おばあちゃんと一緒に食べてね。」
「チーズも入ってると嬉しいんだけどな。」
「はいはい。まったく食いしん坊なんだから。」
お母さんは眼鏡を上げながら、バスケットにチーズを入れてあげました。
「じゃあ、赤バンダナちゃん、頼んだよ。」
「分かってるって。」
赤バンダナちゃんは元気に玄関を出ました。
と、ここでお母さんが赤バンダナちゃんを呼び止めました。
「森には人狼が出るからね。気をつけなよ。」
「人狼?」
赤バンダナちゃんは首をかしげます。
「こんなことも知らないの?人狼っていうのは、人の姿をした狼なんだよ。狼の耳と尻尾が生えてる他は人間そっくり。でも、凶暴だから襲われないようにね。」
「分かった分かった。」
赤バンダナちゃんは適当に返事をして森に入っていきました。
結局、人狼に会うこともなく、赤バンダナちゃんはおばあちゃんの家に着きました。
赤バンダナちゃんは扉を叩きます。
「おばあさーん!お見舞いに来……。」
「よく来たな!」
やたら元気な声と共に思いっきり扉が開いたので、赤バンダナちゃんは吹っ飛ばされてしまいました。
「あたたたたた……。」
赤バンダナちゃんは額を押さえながら起き上がります。
「悪かったな。今ちょうど新作の料理が完成したところだったんだ。」
おばあちゃんが赤バンダナちゃんの手を引いて立ち上がらせました。
「病気だったんじゃ……。」
「そんなものは町のお姉さん達に会いに行ったら治った!」
道理で元気なはずです。
お姉さん好きのおばあちゃんに、赤バンダナちゃんは深くため息をつきました。
「さ、それよりも温かいうちに食べよう。パンも持ってきてくれたんだろ。」
「あとチーズと葡萄ジュースも!」
おばあちゃんに連れられ、赤バンダナちゃんは元気に家に入っていきました。
「そういえば、ママが人狼がどーたら言ってたけど、結局会えなかったな。」
「人狼?」
おばあちゃんの料理を食べながら赤バンダナちゃんは言います。
おばあちゃんは少し考えていましたが、思い出したように手を打ちました。
「人狼だったら、最近この辺に来た猟師さんが生け捕りにしてくれたぞ!」
「ええっ!?」
赤バンダナちゃんは思わず立ち上がります。
「何だ、人狼に会いたかったのか?」
おばあちゃんの質問に、赤バンダナちゃんは大きく頷きます。
「強い相手とバトルするのはオレの夢だからな!」
赤いバンダナを頭にかぶり、熱く夢を語る少年に、おばあちゃんは細い目をもっと細めました。
さて、ここは噂の猟師さんの家。
「シュウ!この首輪と鎖、外しなさいよ!」
「嫌だね。いい加減立場をわきまえたらどうだい、ハルカ?君はぼくに捕まっているんだよ。」
シュウと呼ばれた若い猟師さんが笑みを浮かべて鎖を引きます。
ハルカという名の人狼の少女は、引かれる鎖に逆らえず、シュウの足元まで引きずられてきました。
「ハルカ、今日も逆らえなくなるまでいじめてあげようか?」
シュウはハルカの首輪を掴んで唇を奪います。
舌を絡め取られながらハルカは思いました。
どんな化け物よりも人間が一番怖い、と。